首都占拠の呼びかけ
「選挙は首都にとどまらず」
テロ組織の積極的撲滅政策を行った藤森アルベルト大統領時代に弱体化させられた極左武装組織「センデロ・ルミノソ」(輝く道、SL)が、南米の左派再興の流れの中で力を取り戻し、現政権への抗議活動として19日に「首都占拠を行う」と宣言したことで、ペルー国内の緊張感が高まっている。
SLは1991年に日本、イスラエル、アメリカの大使館を同時に爆弾攻撃し、国際協力事業団(JICA)の日本人農業技術専門家3人を襲撃し、殺害する事件を起こしたことで知られる。藤森大統領が失脚した後、勢力を盛り返している。
7月1日付ペルー21紙《「カマラダ・ビルマ」がリマ占領を呼びかけ、ボルアルテの辞任を要求》(1)によれば、SLは代弁者「カマラダ・ビルマ」ことフローラ・バルガス・フィゲロアによる約3分半にわたる音声を公開し、7月19日に「第3次首都占拠」を予告するとともに、ディナ・ボルアルテ大統領の辞任と議会閉鎖を求めた。
SLの日本語訳は「輝く道」、正式名称はペルー共産党(軍事ペルー共産党とも)。SLは1980年代からの左派ゲリラ組織の残党だ。テロリストの一部は森林地帯に潜伏し、麻薬密輸を資金源に現在も活動を続け、影響力を維持している。SLは左派のペドロ・カスティージョ前大統領の復権を支持している。
「カマラダ・ビルマ」の音声では次のような内容が訴えられている。
「2023年6月からの人民の闘争は、国の隅々まで及ぶことになる。我々の目的は『リマの占拠』にと止まらず、『ペルーの占拠』である。つまり、リマを、地方を、県を、州を、地区を占拠する」
「国民が求めているのは大したものではない。裏切り者、売国奴、出世主義者、ペルーの民衆を殺した暴漢、ディナ・ボルアルテ・ゼガラの辞任と、腐敗したペルー議会の全員の退陣だけだ」
「ペルーからの野蛮人、世界の人民の大量虐殺者、間もなく世界の科学的社会主義によって粉砕されるであろう。公平であるペルー国民の闘争に万歳。英雄的で闘志あふれるプノ県の人々に万歳」
このSLの表明に対し、対テロ対策局(ディルコテ)のホセ・サバラ局長は、「テロリストの残党が次の動員に向けて支援を求めているのは『死』と『国家構造の不安定化』であり、混乱と暴力の誘発である」と批判した。
さらにサバラ局長は、同局は警戒態勢を敷いており、情報機関、警察、軍隊と協力して、この数日間の抗議行動中に暴力行為が勃発するのを阻止するように努めていると述べた。
ロンデロス動員参加表明
緊張感高まる第3次占拠
7月3日付ペルー21紙《有識者らは「リマ占拠」を受け非常事態宣言の発令を要請》(2)によると、SLの残党勢力が19日に首都占拠を行うと宣言したことに対し、ペルー元内務大臣のフェルナンド・ロスピリオシと対テロ対策局ホセ・バエーリャ元局長は首都に非常事態を宣言するべきだと注意喚起した。
非常事態宣言は自然災害、感染症のパンデミック、戦争、テロ、内乱、騒乱など、健康・生命・財産・環境などに危険が差し迫っている緊急事態に際し、国・地方政府などが法令などに基づいて特殊な権限を発動するために事態を宣言する。これが行われれば警察や軍が、暴力を煽る首謀者や過激派組織を即座に逮捕するのが容易になる。
対テロ対策局のバエーリャ元局長とエクトル・ホン・カロ前局長は、SLのみならず外部組織の動きに警戒するべきだと懸念を示している。
「第1次リマ占拠」ではテロ組織の活動地域であるアプリマック、エネ及びマンタロ川渓谷を指すVRAEM地域(フニン州、ワンカベリカ州、クスコ州及びアヤクチョ州の一部をなす8郡)で活動を行うコカ栽培者らがトラック30台の送り込みなどの経済支援を行っていた。
カロ前局長は「カマラダ・ビルマ」のメッセージは、間接的にカスティージョ前大統領が一員だったペルー農村部の自治農民パトロール隊「ロンデロス(ロンダス・カンペシナス)」に向けられたものであり、彼らが動員に参加するものだと見ている。
全国農民パトロール・都市・ペルー先住民連合会(Conarc)やペルー農民パトロール単一国組織(Cunarc)などは、既に抗議行動に参加表明を示している。ビクトル・バジェホスConarc会長は「我々は死を恐れない」と述べており、抗議活動に3千人の部隊を派遣することを述べている。
Conarcは21年6月、全国選挙審査会(JNE)周辺の路上でカスティージョ前大統領を棒やマチェテ、拳などを用いて擁護し、キャンプを張って結果が発表されるまで滞在したことでメディアに取り上げられ大きく認知されるようになった。
カロ前局長は、次の抗議行動でSLは暴力的な活動で死者を出すことにより、「政府のせいで死者が出た」と責任を押し付けることを狙っていると警戒している。バエーリャ元局長は、すでに配置予定がされている警察8千に加え、さらに5千人の追加動員が必要であると主張している。
統一令部結成、統一と強化
50万人のロンデロ動員か
7月5日付ラ・レプブリカ紙《リマ第3次占拠:ボルアルテへの抗議行動を指揮する全国統一闘争司令部が結成される》(3)によると、ペルーの26地域の労働組合指導者の全国集会で抗議行動を指揮する全国統一闘争司令部が結成されたことが報じられた。
1、2日にリマのプエンテ・ピエドラ地区のカバニスタ協会敷地内で開催された同集会に、マクロ・ノルテ、マクロ・スール、マクロ・セントロ、プエブロス・ジョベネス連合、コンストルッチオン・シビル、そしてクナルクとペルー労働総同盟(CGTP)を構成するペルーの26地域から800人が参加した。
全国統一闘争司令部は46人の構成員で構成され、ペルー全土で行われる抗議活動を統一させ、より強化させることを目的としている。さらに、抗議活動「第3次リマ占拠」での目的は総選挙の実施と議会の閉鎖を求めている。ボルアルテ大統領のことを独裁者として表現している。
カハマルカ農民パトロール組合連盟アラディーノ・フェルナンデス・ルビ副会長は、リマ第3次占拠は13州に存在する70の組合拠点の承認を得ており、全組合には合計50万人以上のロンデロが結集していると述べている。
第1、2次リマ占拠でSLはこれまで農民や市民の大きな協力を得ることがなかったが、今回の呼びかけに対しては、強力な賛同と意思表明を獲得している模様だ。
ホセ・ウィリアムズ・ペルー議会議長は、「第3次リマ占拠は、犠牲者を出さないための平和的行進であるべきだ」と訴え、「平和的な行進でなければならず、1月から3月にかけてのようなものであってはならない」と述べた。
CNNスペイン(4)によると1月までに抗議活動により54人の死者が出ていたことが報告されている。
「第3次リマ占拠」まで10日を切った。暴力活動が行われるのは確実であるとされ、ペルー政府と警察の手腕が問われる。(仲村渠アンドレ記者)
(4)https://cnnespanol.cnn.com/2023/01/19/peru-54-muertos-estado-emergencia-violentas-protestas-orix/