日本の防犯系スタートアップ企業「Singular Perturbations(シンギュラー・パータベーションズ)」の梶田真実代表取締役、倉智隆昌ブラジル支社代表取締役、常盤木龍治ブラジル事業部長が6月26日、編集部を訪れ、ブラジルでの事業展望などについて語った。
同社は2017年に梶田氏によって設立され、AIによる高度な情報分析技術を用いた防犯ソリューション開発を行っている。総務省や経済産業省、米IT企業Google日本法人の開発支援を受け、犯罪予測AIシステム『クライム・ナビ』を開発し、20年には名古屋市が自治体主導で行う防犯活動「青色防犯パトロール」の効率化のために同システムを導入するなどした。
同社は防犯技術需要の高いブラジルでの事業展開を本格化させ、今年8月に初の海外支社をサンパウロ市に立ち上げる。
ブラジル支社代表の倉智氏はブラジル在住歴19年、日本企業のブラジル進出をサポートするコンサルタント会社「BBBR」の代表なども務める。2018年から国際協力機構(JICA)の日本の防犯技術のブラジル導入事業に関わり、22年からシンギュラー社のブラジル進出支援に携わってきた。
倉智氏は「日本の天才たちによって生み出された、日本発のAIをブラジルの治安問題にぶつけ、ブレイクスルーを実現したい。このAIを使って警察組織には危険察知を、民間企業には安全を提供したい」と語った。
梶田氏と常盤木氏はブラジル支社立ち上げ、ミナス・ジェライス州ベロ・オリゾンテ市警団との実証実験延長の調印(別記事詳細)業務などのため、6月10~29日まで滞伯した。
クライム・ナビ開発者でもある梶田氏は、日本で女性として初めて高校二年生から大学への飛び級進学を果たした英才。イタリア在住時に体験した度重なるスリ被害にショックを受け、自身のコンピューターサイエンスの知識を防犯分野へ活かそうと志した。
クライム・ナビは、様々な犯罪関連情報をAIに読み込ませることにより、近い将来どの地点で犯罪が発生するかを予測する。予測をもとに効率的な巡回ルートを自動策定するだけでなく、巡回警官の所持するスマートフォンのGPS機能と連動させることで、精密な警備効果測定を行うことが出来、付属する巡回記録自動作成機能は現場警官の事務作業量低減にも役立つ。
ベロ・オリゾンテ市でのクライム・ナビ実証実験の結果は、警察関係者を中心に反響を呼び、梶田氏らは急きょ、全伯の治安当局関係者が参加したパラー州ベレン市での「第17回ブラジル公安フォーラム年次総会」に招待され、講演を行った。
同社事業チームは、両氏の滞在期間中、全体で7つの州の警察組織に事業説明を行った。
梶田氏は今回が初めての来伯だが、治安対策に悩む多くの人々と接し、「私たちの技術が本当に必要とされているのだと痛感し、必ず事業をやり遂げねばとの思いが新たになりました。ベロ・オリゾンテ市での実験でクライム・ナビの効果が認められたことは、とても喜ばしいこと。クライム・ナビは強盗など他の事件防止にも役立てられるので、治安問題に悩む他の自治体へも普及を進めたい」と語った。