日伯でデジタル農業共創を=商議所とJICAが事業説明

説明する弘重秀樹技士

 ブラジル日本商工会議所(商議所)イノベーション・中小企業委員会とJICAブラジル事務所(江口雅之所長)は2日、JICA技術協力プロジェクト「アグリフードチェーンにおけるイノベーション・エコシステム及び持続可能性強化のための精密・デジタル農業共創プロジェクト」説明会をサンパウロ市の商議所施設で開催した。同プロジェクト開始に合わせ、6月にブラジルへ着任した株式会社オリエンタルコンサルタンツグローバル(東京)の弘重秀樹技士が説明を行い、会場とオンラインで約80人が参加した。

 同プロジェクトは、日本とブラジルでデジタル農業を共創する技術協力事業。2026年3月までの約3年間実施される。両国官民連携で穀物、畜産、アグロフォレストリー分野における実証事業を行い、デジタルプラットフォーム整備支援を通じて農業環境や経済的持続性の向上イノベーションを図る。
 開会挨拶に立った青木一誠JICAブラジル事務所次長は「現在の世界情勢では、食料安全保障課題への対応が急務となっており、ブラジルはその解決に大きく貢献できるポテンシャルを持っています。しかしその一方で、環境保全や気候変動対策、違法森林伐採の撲滅などの課題も抱えています。こうした中でデジタル技術を活用した農業の更なる効率化は喫緊に取り組むべきものと理解しています」と述べた。
 日本の農林水産省では、デジタル技術を活用した農業を「スマート農業」と呼び、その定義を「ロボット技術やICT等の先端技術を活用し、超省力化や高品質生産等を可能にする新たな農業」としている。
 ブラジルでは既にスマート農業が実践されているが、コストが高いため、大規模生産者は行えても、中小規模生産者には普及していない。今回のプロジェクトでは中小規模生産者に重点を置き、ESG(環境、社会、ガバナンス)の概念に基づいた効率的な農業開発を目指す。
 拠点となるプロジェクトヘッドオフィスはサンパウロ州サンカルロス市のブラジル農牧研究公社(エンブラパ)で、ブラジル農務省やカンピーナス市のエンブラパデジタル農業と連携する。
 デジタルプラットフォーム整備では、日本の農研機構が管理する気象や収量予測データなどを提供するクラウドサービス「WAGRI API」などをモデルに、エンブラパのアグリAPIを活用してシステムの改善を図る。生産者とICTベンダー、農機メーカーなどが情報を共有して、農業関連データやプログラムを組み合わせたWebサービスやアプリケーションを開発し、Webサイトやスマートフォンで必要な情報を確認できるようにして生産性と収益性を向上させる。

会場の様子

 実証事業は、穀物分野はマット・グロッソ州、畜産はサンパウロ州、アグロフォレストリーはパラー州で行う。
 実証事業の例の一つに、トメアスーのCAMTA協同組合のアグロフォレストリーが挙げられた。同組合では独自のデジタルデータを使用したトメアスー式アグロフォレストリーをSAFTAとして商標登録しているが、まだその製品に付加価値はない。今後はデジタルデータを使用してSAFTA認証の基盤を固め、価値を高めていく。
 質疑応答では、ブラジルの「スマートシティ・プロジェクト」リーダー、ロブソン・オリベイラ氏が、ブラジルで推進されているスマートシティ・プロジェクトの更なる発展に日本のスマート農業を導入したい意向を示した。
 スマートシティ・プロジェクトが実施されているミナス・ジェライス州カルモ・デ・カジュルは、消費エネルギーの73%をクリーンエネルギーで賄い、国連から賞が授与されている。今後は100%クリーンエネルギー化を目指すが、その事業計画の中には太陽光発電と日本のレッド電球を使用したイチゴ栽培事業の導入がある。イチゴ栽培事業を通じて、町の発展と雇用を促進し、事業規模は50万ドルまで成長させることを見込んでいるという。

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