JICA(国際協力機構)の緒方貞子平和開発研究所が実施する研究プロジェクト「日本と中南米間の日系人の移動とネットワークに関する研究」のメンバーのうち、長村裕佳子主査、研究分担者の蘭(あららぎ)信三大和大学教授(上智大学名誉教授)、横浜市立大学大学院博士後期課程の中澤英利子さんの3人が、調査のために3週間ほどブラジルに滞在中で29日に編集部を訪れた。
長村さん(36歳、茨城県出身)によれば、いろいろな大学の先生15人に声をかけて、日本国内と南米の日系社会の調査をしており、7~10月までに入れ替わり8人が来る予定。「社会学的視点を中心に、南米移住と帰還移民(デカセギら)がどのような経験をして、その中でどんなネットワークを形成してきたかを調べている。親族や県人会などのつながりに移住体験がどのように関係しているかなど、各自がテーマを持って研究に取り組んでいる」。
『「満州移民」の歴史社会学』(行路社、1994年)の著者でもある蘭さん(69歳、佐賀県)は、「満洲」経験や戦後経験の聞き取りを日本国内の様々な領域で長年行ってきたが、その過程で一部が南米に流れ込んでいることを知り、今回の研究チームに加わったという。
「満州引揚者155万人中18万人が病死や行方不明になった」とその体験の壮絶さを前置きし、「引揚者の中で日本において農業で成功した人は非常にまれ。だが、ブラジルでは日本でできない農業に挑戦して結果を出している人がいる。今回すでに様々なタイプの人7人ほどに聞き取りをしたが、予想をはるかに超えた経験の多様性があり、とても興味深い話が聞けている」と手ごたえを感じている。
蘭さんは「引揚者の流れの一つがブラジルに来ている。その流れを明らかにし、ブラジルを中心に20世紀の日本の移植民を見直す視点が開けてきた」と一気に語った。
戦後の花嫁移民を研究する中澤さん(神奈川県)は「鹿児島県人会、小南ミヨ子さんが送り出したききょう会メンバー16人、例えば滝友梨香さんなどから話を聞いた。その結果、日本のメディアが当時盛んに宣伝をしていたことが分かってきた」という。
Nagamura.Yukako@jica.go.jp)への連絡を呼びかけている。