USPでエタノール水素車開発=グリーンな技術革新として注目

燃料電池自動車「ミライ」(トヨタ自動車公式サイトより)
燃料電池自動車「ミライ」(トヨタ自動車公式サイトより)

 給油不要で約600キロの走行が可能、排気管から水蒸気を放出する完全無音の電気自動車。これはサンパウロ総合大学(USP)で、世界初のエタノールをベースとしたグリーン水素を製造するパイロット・プロジェクトの試験用に貸し出された、トヨタの車両「ミライ」だ。水素を電力に変換する燃料電池を搭載した数少ないモデル。この画期的な自動車の仕組みやプロジェクトの構想について5日付フォーリャ紙(1)が報じた。
 USPが取り組むこのパイロット・プロジェクトは、シェル・ブラジルやRaizen、Hytronと提携し、グリーン水素の生産と利用における技術の発展を促進し、持続可能なエネルギー源への移行を支援することを目的とする。
 「グリーン水素」は再生可能エネルギーで作ったものを指し、化石燃料によるものは「ブルー水素」と呼ばれる。天然ガスや石炭を使う後者は、生産時に二酸化炭素を排出するのが難点だ。
 その点、グリーン水素は再生可能エネルギーを活用して製造されるため、気候変動対策において極めて重要な役割を果たすと言われる。
 現在、最も広く使われている製造方法は太陽や風力エネルギーを使って生産する方法だ。だが水素燃料は低温かつ高圧下での貯蔵が必要なため物流が困難で、製品コストを上昇させている。
 そこで同プロジェクトではエタノールを原料とする新方式を開発し、輸送の課題を克服することが期待されている。ブラジルでは既にエタノール関連インフラが整備されており、エタノール輸送が簡単で広範なネットワークが存在していることに着眼した。
 プロジェクトが成功すればエタノール産業にも利益をもたらす。サトウキビやトウモロコシなどの農作物を生産し、これらの作物が光合成を通じて二酸化炭素を吸収するため、エタノールを使用したグリーン水素は炭素中和に寄与する可能性が高い。
 また農業大国ブラジルは国際市場で競争力を持っている。エタノールをグリーン水素の生産や運搬に活用することは、ブラジルの地位を強化する可能性があるとみている。
 8月に建設が始まった試験プラントは燃料補給ステーションとして機能。ここにはプロジェクトの中心、化学反応によってエタノールを水素に変換する能力を持つ「リフォーマー」設備が設置される。このプロセスは実験室規模ではすでに実証済みだ。この技術を向上させ、生産規模を拡大し、将来的にガソリンスタンドのような場所で燃料生産を行うことを目指す。
 USP温室効果ガスイノベーション研究センター(RCGI)総責任者ジュリオ・メネギーニ氏は、水素燃料車から排出されるのは水蒸気だけで、汚染物質はないと指摘。「電気自動車の充電が8時間かかるのに対し、5分で燃料補給が可能。走行距離は600キロ以上に及ぶ」と話した。
 試験プラントの運用中、研究者らは生産量とコストを算出し、プロジェクトの第2段階では、製鉄などの他産業向け水素利用について研究開発するため、より大規模なプラントを建設する予定であると報じている。

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