共鳴(ともなり)民謡大会2023(海藤紀世共同代表)が9月30日、サンパウロ市の秋田県人会館で初開催され、約100人が集まって3年ぶりの民謡大会を楽しんだ。パンデミック以前は別々に開催されていた民謡大会だが、コロナ禍で参加者が激減したことにより、一つにまとめて復活させた試みだ。
紀世代表は「パンデミックの間に歌う人がかなり減った。例えば本庄追分なら最後の大会では70人の出場者が一日がかりで歌っていたが、今回は13人。江差追分、道南口説き節なども同じ。それなら一つの大会としてやろうということになった」と説明する。
ブラジル郷土民謡協会もブラジル日本民謡協会もコロナ禍で活動を休止した。パンデミック前最後の大会は2020年3月の本庄追分だった。
午前10時から開会式が行われ、その後の自由民謡部門には26人が出場した。正派ブラジル琴の会の演奏と休憩をはさんで道南口説き節部門が行われ、9人が出演した。指導者の海藤司さんが伯国版替え歌を特別に披露し、「ブラジルは台風もない、地震もないけど、お金もない」などと歌い上げて笑いを誘い、喝采を浴びた。
続く江差追分の部には7人が出場。ヴィトル・バルボーザさんがカモメの鳴き声を模した部分などを器用に歌って賞賛を浴び、ベテランの海藤紀世さんらは滔々と歌い上げた。
途中、若手民謡グループ「民」の演奏となり、元気いっぱいにソーラン節や花笠音頭、秋田ドンパン節、迫力の津軽三味線5人合奏を披露した。最後に紀世さんは「我々を啓発、刺激してくれた伊藤さんを思い出して感謝しながら一緒に歌いましょう」と呼びかけ、今年2月に亡くなった伊藤武さんを顕彰して皆で本庄追分を歌った。
伊藤さんは秋田県由利本荘市出身で、故郷の民謡をブラジルに根付かせるために本荘追分大会の実行委員長となり、優勝者を日本に送り出していた功労者だ。
自由民謡部門1位は高木エヴェルソン、2位は海藤晶子(あきこ)、3位は保坂富男、道南口説き節部門1位は海藤晶子、2位は安永幸柄(ゆきえ)、3位は今村アンドレ、江差追分部門は1位が玉城さおり、2位は馬場アヤ子、3位は有熊茂(ありくましげる)、本庄追分部門は1位が伊計(いけ)マリアナ、2位は馬場アヤ子、3位は玉城さおり(敬称略)。
審査員の塩野彰さんは「今回を第1回大会として続けてほしい。せっかく審査員を置く大会なのだから、舞台で踊ったりするのは控えてほしい」と励ましながらも苦言を呈し、同じく北原民江さんも「本来なら日本行きがかかった大会だから、けじめが大事。いくらうまく歌えても日本文化へのリスペクトが必要」と述べた。
閉会の辞でグループ「共鳴り民謡」の一人、バルボーザさんは「3年ぶりの開催で会場がガラガラになるのではと心配だったが、一杯になったのを見て涙が出た。次回また会いましょう」と語った。
紀世代表は「また参加者を増やして優勝者が日本に行くような大会に戻したい」と意気込んだ。海藤司さんは「年寄りにとってのパンデミックの3年は長い。人数が大幅に減るのは予想されたこと。でも若者の愛好者は確実に増えており、今回は出なくても、きっと来年にはもっと出場してくれるはず」との期待を語った。
□サビアの独り言□
今回主催した「共鳴り民謡」は、若手民謡グループ「民」の代表だった3人で構成され、民が演奏中心の活動をするのに対し、こちらはイベント企画や運営を行う。出場者の保坂富男さん(90歳、秋田県出身)に話を聞くと「1歳で伯国に。母親が民謡大好きで、7歳の時に江差追分を習って以来ずっと歌っている」との年季の入りようだった。コロナ禍中から民謡のオンライン指導を月2回実施してきた秋田県人会の大間知アウフレッド諒士(まこと)会長は、「一緒に民謡を練習しましょう。希望者は県人会(11・5573・4107)まで連絡を」と呼びかけた。