在住者レポート アルゼンチンは今=レストランの食事は札束で=ハイパーインフレ生活の実際=今後4年の国政決める大統領選挙=相川知子

日本食レストラン「ミルタキ」のメニュー(https://www.instagram.com/mirutaki/)。2022年7月末(上)と、10月12日現在(下)を比べると、値段の違いは一目瞭然($はアルゼンチンペソ)

 「インフレ数パーセントが原因で経済は大変だ」と世界のいろいろな場所でのニュースを聞きながら、アルゼンチンの人達は苦笑い、うらやましいとさえ思います。
 アルゼンチンでは毎月10%以上物価が変動し、毎月、いえ、特にこの数カ月は毎週そして、ここ2週間は数日の間に値段が貼り替えられるのです。
 ブエノスアイレスにある日本食レストラン「ミルタキ」のメニューを、2022年7月末と現在で見比べると違いは一目瞭然。一例として盛り合わせは昨年7月末で2880ペソ、8月には3300ペソ、現在は9200ペソ(!)です。

31年前には1ドル1ペソ

50万アウストラル(From Wikipedia, the free encyclopedia)

 現在流通しているアルゼンチンペソの使用は1992年から、1ドル1ペソというドルと連動して固定されたコンバーティビリティプランの下に開始されました。私は1991年2月にブエノスアイレスに到着し、初めて受け取ったお札はアウストラルという通貨表示でした。1ドル5千アウストラルという交換レートは1ドル1万ペソまで達したので、翌年からゼロを四つとって1ドル1ペソに切り下げ、新しい通貨が導入されたのです。
 当時、50万アウストラルまで達していたのでスペイン語の数字のいい勉強になりました。

現在の為替レート・さまざまなレート

 それから31年、2023年10月13日現在、1ドルの価値は国立銀行のレートでは$365・50です。お札は同じ物を利用しており、当時100ペソ札が最高額であったのが、現在は1千ペソ札そして、記念紙幣として2千ペソ札が5月から流通するようになりました。
 トゥリスタというレート$731はアルゼンチンの銀行発行カードを外国で使用する場合適用され、つまり、アルゼンチン人が外国旅行をしたときなどです。MEPレートは$870・43で、株式市場で使用される一方、外国発行のカードをアルゼンチンで使用する場合適用されます。
 つまり外国人が旅行に来ればこのレートです。そして、一般的にブルーもしくは自由レートは「非公式」ですが現実のレートであり、今週半ば一時$1010に達しましたが、少し下がり$980で週末を迎えました。 

止まらないインフレ

 アルゼンチンはインフレが止まりません。
 8月のPASO中間選挙後、とうとうパン1キロの代金が800ペソと1年前の2倍になってしまいました。去年の同じ時期は400ペソ(https://www.brasilnippou.com/2022/220819-41colonia.html)。
 10月の初めは1千ペソになり、先週からは1100ペソになってしまいました。今まではドルとの交換レートの20%増しぐらいであったので私はドルレートの指標のように考えていました。
 今週からはほぼ追いついているので、1キロ1ドルですからペソで生活をするアルゼンチン人にとっては、ペソでは値上げなのですが、ドルレートで考えると下がる、という不思議な減少が起きます。

消費者物価指数9月は年間140%上昇

 アルゼンチンの首都ブエノスアイレスの統計では、先月9月の消費者物価指数が、前の月からは12%、前の年の同じ月に比べて140%も上昇しています。
 実は給料もインフレにスライドして「昇給」されます。ブエノスアイレス市の職員の場合7月から9月間25%アップされました。これだけ聞くと驚かれるかもしれませんが、その前から賃上げがゆっくりとした伸びだったので、140%というインフレといたちごっこと言える状況が続いています。
 スーパーで毎週値段が張りかえられている金額に追いつくかどうかなので、日常的にはシャンプーや洗剤などの日持ちがするものを買い置きして予防します。中期的に車や不動産などを購入して目減りを少しでも防ぐようにするしか防衛策がないともいえます。
 ペソで貯蓄しても日に日に目減りするので、ドルを買っておくこともあります。ただ、公式には月200ドルまでの購入制限があります。なお、銀行からの一日の引き出し制限は多くて20万ペソです。それでもペソを売りドルを買うため、自由ドルレート、即ち非公式のブルーレートがあるという訳です。

「La Cabrera」店の入り口。パレルモソーホー地区はグルメなレストランが多い、予約客が帰った後入ろうと行列をして待つ人々。半数以上が外国人観光客(撮影 ファニプロラテンアメリカ)

札束で支払い 外国人観光客には安価なグルメが楽しめるアルゼンチン

チップ込み1千ペソ札130枚(撮影 相川知子)

 今週は長女が産業食品技術学士の学位授与式だったので、パレルモソーホー地区のレストランで記念夕食会をしました。小さい頃から知っているのでお祝いにとオーナーが半額にしてくれて、チップ込み1千ペソ札130枚で支払いました。(写真)レジでは信用しているから大丈夫と銀行の帯付の束をそのまま受け取ってくれました。
 自由レートで130ドルほどの価値です。高めのワインを3本開けて牛肉料理数点とデザートを8人で食べました。(写真)この倍の料金なら一人30ドルほどで、本来なら札束二つ以上ですね。でも、来月はどのぐらい札束が必要かお店の人にもわかりません。

肉料理は合計5点(撮影 ファニプロラテンアメリカ)

 ワールドカップ景気も相まって知名度向上中のアルゼンチンでこんな物価でグルメな旅行ができると外国人観光客の到来は止まりません。特にブラジルの方で賑わっていました。
 この他、肉料理は合計5点食べました。
 「La Cabrera」はアルゼンチン国内、チリ、コロンビア、スペイン、アメリカ、フィリピン、メキシコ、パラグアイ、ペルーにフランチャイズ店があります。メニューはありますが実際の値段は店(https://www.lacabrera.com.ar/page-menu/10-menu)でご参照ください。

アルゼンチン人には決して安くない物価

 インフレが進むにつれ給与が上がっても、外食費はアルゼンチン人の視点からは安くありません。
 具体例として私のブエノスアイレス市の大学教員で週に4時限分の月給を紹介しましょう。7月は$11万4218・40(1ドル590ペソ、193ドル)が、9月は$14万3532・97(1ドル745ペソ、192ドル)とペソで25%上がっている一方、為替レートが変更されるので、ドル視点では変わりません。
 8月の中間選挙では野党でドル化を提唱するミレイ候補が傑出したため、その影響でインフレ率もさらに上がり、それが少し反映された訳です。しかしこのままではドル建で目減りは必至です。
 なお、実はこの金額は週20時間の公立小学校教諭の月給に等しく、現実にはその先生はもう一校行って通常倍受け取っています。それでやっと月に400ドル相当の収入ですから、パン1キロ約1ドル、高級レストラン30ドルは、外国人観光客にとってお得な値段ですがアルゼンチンの多くの人には決して安くはありません。
 その一方で経済的に余裕のある人でも、今を楽しむ傾向があります。明日は高くなるので今、消費をするチャンスなのです。国の経済問題にもかかわらず、美味しい物を食べたり、旅行をする人が少なからずいる所以です。
 1895年創立のブエノスアイレス市外国語大学で日本語を教えて30年になります。公教育は無償。日本語は選択外国語科目公開講座なので18歳以上の一般成人も無料で学ぶことができます。

ブエノスアイレス市外国語大学の日本語講座の学生と著者(写真提供 相川知子)

外国人投票選挙立会人招集

選挙立会人招集状。個人情報を消しています(撮影 相川知子)

 来たる10月22日は大統領選挙です。与党が継続しても野党が勝っても、インフレは続くのがアルゼンチンです。
 この度の選挙では選挙立会人招集状(写真)を受け取りました。ピンク色の紙です。対応研修もあります。アルゼンチンの選挙では候補者の写真が掲載され政党の色別なので文字に不自由でも投票をすることができます。
 しかしながら、反対側の政党の投票紙をたくさん持って行ってしまい、後の人が投票できないようにしたり、きちんと封をしなかったり、投票箱自体を持っていったりする不正が発生することもあるのだそうです。ともあれ、どんな考え方であれ尊重されるべきであり、選挙は民主的に行われるべきだと思います。
 私のような外国人も2021年デジタル化により手続きをせずに在住地ブエノスアイレス市長選投票権を行使できるようになり、その管理に参加することができるのは嬉しい限りです。
 アルゼンチンの向こう4年間の行方を決める選挙はもうすぐです。(10月13日 ブエノスアイレス 相川知子)

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