アルゼンチンの次期大統領に選ばれたハビエル・ミレイ氏(自由前進・LLA)。勝利のカギを握っていたのは若い有権者たちだった。20日付BBCブラジル・サイト(1)が報じている。
リバタリアン(自由至上主義者)経済学者として知られるミレイ氏の演説の特徴の一つは、宗教的な文献を多用することだ。特にユダヤ教の教えを多用し、中でも「私はここに羊を導くために来たのではない。ライオンたちを目覚めさせるために来たのだ」という有名なフレーズで知られている。
選挙勝利後のスピーチでは、「戦争での勝利は兵士の数ではなく、天からの力から来る」と述べ、ユダヤ歴史書の1つ「マカバイ記」を引用した。これは紀元前166年のユダヤ解放運動の反乱を指しており、ミレイ氏が政界に入った2021年に初めて口にしたフレーズだ。
ミレイ氏を熱狂的に追随する若い自由主義者たちは、この言葉に共感し、「天からの力」という名前で自己定義し、それが同氏の急速な人気拡大に寄与した。
ミレイ氏の伝記を書いたジャーナリストのフアン・ルイス・ゴンサレス氏によると、ミレイ氏自身がSNSやWhatsAppなどを通じて「ネットワークの寵児」として現れて注目を集めた、アルゼンチンでは初めての人物だとされている。
そのミレイ氏のデジタル戦略の責任者は、なんと若干22歳のイニャキ・グティエレス氏だ。彼は、英国の欧州連合離脱キャンペーンや、トランプ前米大統領、ボルソナロ前ブラジル大統領の選挙キャンペーンがSNSを通して成功を収めたことを挙げ、「ミレイ氏のキャンペーンではTikTok投稿に力を入れた」と話す。小規模キャンペーンにおいてもコストをかけず、多くの人にアプローチできる点を強調した。
ミレイ氏の「天の力」を構成する「兵士」(ネット支持者)は、主にTikTokを利用する30歳未満の若者たちだ。選挙でミレイ氏に投票した大多数は、16歳から29歳の男性で、10人中4人が女性だった。
多くの若者たちは過去の進歩的政策から疎外されており、中絶の合法化、女性や性的少数派の権利に関する動きにも不満を抱いている。
そこに新型コロナウイルスによる8カ月以上にわたる世界最長のロックダウンが追い打ちをかけ、経済危機と高インフレから抜け出す方法を見つけられない「いつも同じ顔ぶれのパッとしない政治家たち」にうんざりしていた。ミレイ氏は希望を失った若者たちに光を与えたのだ。
政治アナリストのファクンド・クルス氏は、ミレイ氏のTikTokキャンペーンが若者たちの心に刺さり、彼の「アナーコ・キャピタリスト(無政府資本主義者)」の立場を支持するに至る重要な戦略であったと指摘している。
しかし一方でこの新しい「個人主義」から生まれた半無政府主義的政治形態は、組織の複雑さと統治の課題を抱えているとも警告している。クルス氏は、「今後、LLAがどのように機能し、誰が決定を下し、権限の役割がどうなるかが課題だ」と説明した。