アルゼンチンでハビエル・ミレイ氏が大統領に就任した。「南米を混乱に陥れる新たな問題児になるか」と注目されていたが、就任前に息巻いていた中銀廃止の件はトーンダウンし、ルーラ政権への敵意も選挙が終われば聞こえてこない。就任後は、ペソの切り下げを行いつつも、極貧層の手当てを2倍にするなど、社会的弱者を切り捨てるどころか保護する政策を出した。選挙中にはあたかも悪魔かのように忌み嫌っていた中国に対して資金援助を求めるラブコールまで送っている。ミレイ氏には「今までのメディアでの煽りはなんだったんだ」と思わされる展開が続いているが、その一方で、「あの問題児」が久々に大暴れしている。「あの問題児」とはもちろん、ベネズエラのマドゥーロ大統領のことだ。
マドゥーロ氏はこれまで彼が行ってこなかった新たな手法で問題を巻き起こしている。
マドゥーロ氏といえば、「国内での独裁体制を築くために容赦しない」というイメージが強い。実際に大統領選で敵になりそうな候補を不当逮捕させ、国民議会選挙で野党が圧勝すれば、「憲法制定議会」という名の並行組織を作り国民議会を無実化させた。
国民議会では一時、フアン・グアイド議長が「自分こそが大統領」と表明し、ボルソナロ政権時代の伯国を始め、多くの国がそれを認めた。だが、マドゥーロ氏の独裁は続き、議会もいつしか与党が権力を奪還。グアイド氏も去ってしまった。
パンデミック以降はマドゥーロ氏の圧政についての報道は少なく、つい先日は米国に対し「2024年は民主的な大統領選を行うことを約束する」と宣言し、それによって、自身の非民主的な専制への懲罰として加えられてきた経済制裁の一部を解いてもらうなどしていた。
だが、それで丸くなったと思ったら大間違いだった。マドゥーロ氏はとうとう、国内にとどまらず国外にまで干渉を始めたのだ。
相手は隣国の小国ガイアナで、同国の3分の2を占めるエセキボ地区を併合したいと言い出した。この地域をめぐってベネズエラとガイアナは19世紀から論争を行っていたのは事実だ。だが、マドゥーロ氏が今その問題を蒸し返しているのはエセキボで8年前に見つかった豊かな埋蔵量の油田を手に入れたいがためであることは誰の目にも明らかだった。
ただでさえ見張られている立場なのに、国際上、誰も主権の正当性を支持するとは思われない中で、堂々と喧嘩を売りに行く。マドゥーロ氏のこの暴走ぶりには、ミレイ氏がどんなに狂人風のパフォーマンスをやったところで敵いはしないだろう。(陽)