コロナ禍以降、在宅勤務になり、家の中での事故に対応しやすくなった。ところが、所用で出かけている間に、主人が立ち上がろうとしてバランスを崩して転倒、腰を打つ怪我をしていて驚いた。
と同時に、以前受けた高齢者向けデイサービスのボランティア研修会で、カーペットほどの段差でも転倒事故は発生し、骨折や寝たきりの原因となり得るといわれたこと、知人が入浴中に転倒して亡くなったこと、年頭に読んだ転倒死に関する記事などが脳裏に浮かんだ。
記事は、拭き掃除中に足を滑らせた男性が頭を強打して亡くなり、妻も、ベッドカバーを踏んで足が滑り、壁で頭を打って、1カ月近く、目の周りが黒くなっていたという話から始まる。
家の中が事故多発地であることは知っていたが、夫婦揃って転倒事故という話はそれが現実であることを実感させる。件の記事には、ブラジルでは1日平均63人の高齢者が転倒して病院に運ばれ、その内19人が亡くなっていると書かれていた。
また、2013年に転倒して亡くなった高齢者は4816人、2022年は9592人ともある。13~22年の10年間の高齢者の転倒死者は7万516人で、65歳以上の死因の3位だという。
また、高齢者の転倒や転倒死が増えた主要因は、寿命が伸びて高齢者が増えていること、状況が明確で病院側の報告書でも漏れが起きにくいこと、高齢者の移動時の事故を回避するための公共政策の欠如だともある。
ブラジル整形外傷学会の医師は、60歳を過ぎると転倒しやすくなる理由として、加齢と共に筋肉が落ち、筋力が衰える症状「サルコペニア」と、めまいやそれに伴う転倒を引き起こす可能性のある神経学的変化などの併存疾患を患う可能性が増すことをあげている。
関節や筋肉などの激しい痛みを伴う慢性疾患の繊維筋痛症と糖尿病を患っている66歳女性は、起床後に庭に出て気を失い、血を流して倒れているのに気づいた家族の手で病院に運ばれたことで、病気とそれに伴う危険性を認識。その後は生活のリズムにも留意し始めたという。
転倒は加齢と共に増え、80歳以上だと4割が毎年、何らかの形の転倒事故に遭っているという。
2000~19年の高齢者の転倒死者は13万5209人で、60代が17・57%、70代は26・31%、80歳以上は56・12%という調査もある。
専門家は、死には至らなくても寝たきりになるなどの後遺症が残り得ること、事故の大半は回避できることも指摘。
先の研修会では、身体の状態や身体能力の変化を受け入れられない高齢者が多いことも語られた。転ばぬ先の杖ではないが、定期的な健康診断などで自分の状態を知り、タンパク質が豊富な食事や運動で筋肉量を落とさない工夫をするなどの努力を続けることを望みたい。(み)