ブラジルの風力エネルギー産業は急成長中で、設備導入数の記録を次々と塗り替えており、既に3千億レアル(約9兆円)以上の投資をもたらした。2023年は電力システムに追加された1万300メガワット(MW)の内、約半分の4900MWが風力発電によるものだったと28日付エスタード紙(1)が報じている。
風力発電は今後数年間も安定して成長し続ける見込みで、過去数年間の入札で契約されたプロジェクトだけ見ても、2030年までの投資額は1750億レアルに上り、発電能力が2万5千MW増える見込みだ。これにより、風力発電の設備容量は現在の約3万MWから、ほぼ2倍の5万5千MWに増加する見通しだ。
これらの数字は現時点では陸上プロジェクトのみを対象としているが、海上風力発電の技術導入も予想されている。それが実現すれば、洋上風力タービンがブラジルの電力生産に大きな推進力をもたらすと予想され、投資額も、今後10年間で3倍になると見込まれている。
ブラジル風力エネルギー協会(Abeeolica)のエルビア・ガンノウン会長は、「風力発電の成長は第一に、その競争力によるものだ。風力発電は18年以降、政府主催の入札の他、消費者が最低入札価格から直接エネルギーを購入できる自由市場でも契約されるようになった」と説明した。
ブラジルにおける再生可能エネルギーの拡大は環境と経済の両面で極めて重要だ。環境的側面から見ると、地球温暖化問題への取り組みが喫緊の課題となり、世界的に脱炭素化が進められている中、再生可能エネルギーは化石燃料に比べて二酸化炭素排出量を大幅削減できるため、環境保護に貢献する。
一方、経済的側面では、クリーンなエネルギー源が供給されることで、企業が二酸化炭素排出量を削減するための投資機会が提供される。特に、風力発電や太陽光発電などの再生可能エネルギーは、エネルギーコストが低くなることが証明されている。
例えば、国家電力庁(Aneel)が22年10月に開催した新エネルギーオークションでは、太陽光発電所と風力発電所が1MW時あたり180レアル(約5500円)以下でエネルギーを提供しており、他の発電所よりも経済的価値が高いことが示された。
特に風力発電は、ブラジルの電力マトリックスにおいて重要な位置を占めている。現在は計3万MWの発電能力がある設備が稼働しており、国内電力の約15%を供給している。風力発電所は国内12州に1003カ所設置されており、約4100万世帯に電力を供給している。
社会経済開発銀行(BNDES)はブラジルの風力発電の拡大を支援しており、風力発電プロジェクトのほぼ60%に年間31億レアルを融資している。また、風力タービンの開発や部品製造のプロジェクトも、長年にわたり支援してきた。
「風力エネルギーはブラジルの産業政策の中で、現地調達率に関しておそらく唯一の成功例だ。ブラジルは風力タービンの主要生産国であり、その8割が国産だ」とガンノウン氏は言う。
ただし、専門家らによると、洋上風力発電の拡大にはまだ課題が残っている。具体的には、法的枠組みの承認、必要なライセンスの取得、そしてエネルギーの契約が必要で、これらのプロセスは時間と資源を要する。
また、洋上風力は将来的な供給源として注目される一方、需要が有限であり、既存の供給源との競争が激しくなる可能性がある。特に、陸上風力を含む他の再生可能エネルギー源との競争が激化する可能性がある。
なお、現在はペトロブラスも風力発電や太陽光発電に関するプロジェクトに取り組んでいるが、民間企業に遅れをとっている。イタリア大手のenel社やスペインに本拠を置くiberdrola社などの民間企業は積極的に再生可能エネルギーへの投資を行っており、既に大規模なプロジェクトを展開している。