フランスを中心として、欧州全土に農家による抗議活動が拡大し、危機的な状況に陥っている。この抗議の背景には、生産コストの増加、EU(欧州連合)の厳格な環境基準、EU外からの農産物の輸入による不公平な競争への懸念がある。特にフランスの農家はブラジルなどの主要供給国との競争に不満を持っており、メルコスルとの自由貿易協定(FTA)に対する異議申し立てが相次いでいるという。1月30日付カナル・ルラルなど(1)(2)(3)が報じている。
抗議活動は、主要港や幹線道路をトラックやトラクターで封鎖し、食料品の供給を中断するとの脅しをかけるなど、様々な形で行われている。フランスのマクロン大統領は29日、国内の混乱に対応するため、EUとメルコスルとの貿易協定交渉を停止するよう、欧州委員会のウルズラ委員長に要請した。
自由貿易協定に反対するマクロン大統領の立場は、昨年開催された国連の気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)での発言でも明確に示されていた。マクロン大統領は、メルコスルとの貿易協定が「時代遅れ」で「まとまりがない」とし、EUの利益に反すると主張。また、ブラジルなどのメルコスル加盟国の生産水準がEUの基準に合致していないと強調した。
この抗議活動は、フランスの農家のみならず、ドイツ、イタリア、ベルギー、ポーランド、ルーマニア、リトアニアなどの生産者からの支持を受けている。
抗議の発端は、化石燃料の使用を減らすことを意図したディーゼル税の引き上げで生産コストが上昇したことだ。また、農業でも温室効果ガスの排出削減への圧力が高まっている。EUでは農業関係者と環境保護派の対立が激しく、化学物質から有機物や生物学的物質への切り替えによる温室効果ガスの排出削減を促す法律が導入されたことによる生産性の低下やコストの増加も懸念されている。
農家はさらに、不公正競争に対抗するためにEUが食品輸入を減らすことを求めている。特に、フランスの農家はブラジルやウクライナなどの主要供給国に不満を抱いており、外国産品に対する保護措置を求める大規模キャンペーンを展開。ブラジルはEUの環境基準を満たしていないと訴えている。
また、EUの農業補助金は、環境にやさしい農業を支援するようになっている一方で、生産性を低下させているとも指摘されている。
それでも、ブラジル外交官らはメルコスルと欧州連合の間の貿易協定交渉は「通常通り」継続されるべきとしている。1月30日付オ・グローボ(4)によると、商工開発サービス省(MDIC)のタチアナ・プラゼレス対外貿易局長は、話し合いは国家間ではなく、両ブロックの交渉担当者間で行われており、技術的なレベルでの協議を継続中だと説明した。
ウルズラ欧州委員会委員長は上半期にブラジルを訪れ、政府高官との話し合いを行う予定だ。同氏は昨年6月にもブラジリアを訪れており、同協定を擁護した。しかし、欧州委員会の報道官はマクロン大統領の交渉中断要請翌日の1月30日、「協定締結の条件は満たされていない」と述べている。