《記者コラム》移民大国ニッポンという現実認識を=なぜ外国人子弟教育はアフリカ並み?

 先週、日本から来た政治家が、帰伯子弟支援をするNPO『カエル・プロジェクト』代表の中川郷子さん(66歳、東京都出身)=サンパウロ市在住=から状況説明を受ける際、コラム子も同席して話を聞き、とても感じ入るところがあった。
 日本人がやりたくない仕事を外国人労働者に安い給与で押し付けつつ、移民政策によって生じる社会的コストを避けているのは、日本の人が裕福な生活を続けるためであり、そのしわ寄せが外国人に集まっている構図があると思っていたからだ。
 中川さんは同プロジェクトを通して、リーマンショック後に大量帰伯した日本育ちにはブラジルの学校になじめない子弟が多く、彼らが現地適応するための心理カウンセリングや補習授業などを行ってきた。幼少時に渡伯した中川さんは7歳頃までは日本語だけで育ったため、その後ポ語学習に苦労した。自らの体験に重ね、デカセギ子弟の将来を人一倍心配している。

在日子弟の教育問題の根本は「移民政策」を避けている点にある

 中川さんは「日本で特別支援学級に通う日系人の子供がものすごく多いことが気にかかってる。いったん発達障害だと診断されて特別支援学級に送られると、毎日同じようなドリルばかりやらされ、きちんとした教育が受けられなくなる」という。実際には発達障害ではないのに、審査段階における言葉の問題からそうであると誤審されている可能性を指摘する。
 日本人児童生徒には小学校6年間・中学校3年間が義務教育であり、保護者は子どもに教育を受けさせなければならない。だが外国人には義務ではないので、ただでさえ多忙な教師の意識から遠ざかりがちだ。
 さらに「私たちは90年代からデカセギ支援をしている。あの頃『このままだとあと30年経っても状況は改善しない』と言っていたが、まさにその通りになっている」と悲しそうに述べた。
 中川さんが見るに、「根本的な問題は、デカセギを移民として対応していないこと。彼らは実質的に移民なのに、日本政府は『移民受け入れはない』の一点張りで、在日の子供たちは学齢期でも義務としての教育を受けられない。30年の間に、そうやって教育されなかった世代が親になり、子供を産むという循環になっている。それを断ち切るには日本語でも、ポルトガル語でもいいから、教育によって論理的な思考能力をつけさせるしかない。日本人と同じ教育を与えるには、外国人を移民として受け入れる必要がある」との持論を展開した。

2022年7月1日付Nippon.comで東京外国語大学の小島祥美准教授が発表した《日本に暮らす外国籍の子どもたちに就学支援を》

アフリカ並にひどい日本の外国人教育の不就学率

 これ関して東京外国語大学の小島祥美准教授は2022年7月1日付Nippon.comで《日本に暮らす外国籍の子どもたちに就学支援を:平等に教育を受けられる体制づくりが急務》(2)を発表した。
 いわく《2019年9月、日本で暮らす外国籍の子どものうち、約2万人が学校に通っていない可能性があるという実態が、文部科学省が全国規模で初めて行った外国人の子供の就学状況等調査(2019年度)によって明らかになった。これは、日本で暮らす外国籍の子どもの約5人に1人(18・1%)が不就学状態に置かれている可能性を示す。この数を同じ時期の2019年に発表された国連教育科学文化機構(ユネスコ)リポートと照らし合わせると、その深刻さが顕著になる。なぜならば、世界で最も学校(初等教育)に通っていない子どもの比率が高い「サハラ以南のアフリカ地域」(18・8%)と、ほぼ同じであるからだ》と問題提起している。
 日本という先進国の中で暮らしているのに、外国人子弟だけ「アフリカ同様の不就学率になっている」のは、なぜか?

日本ラチーノ学院の授業の光景(同校サイトより)

 当協会の林隆春会長も《「透明人間」のような外国人児童生徒》との寄稿を22年2月26日付で寄せ、滋賀県東近江市にあるブラジル人学校「日本ラチーノ学院」に関して、このように書いた。
 《ブラジルへの帰国を希望する子どもたちだけではなく、日本の学校でいじめに遭った不登校の子どもたち、軽度の発達障害のある子どもたちなど、日本の学校に適応できないなど多くの子どもたちの止まり木、居場所となっていて、地域のブラジル人にとってなくてはならない存在となっています。
 ですが、日本人社会には見えない「透明人間」となっています。
 (校長の)カイオ氏も「私たちは可哀想な存在ではない。教育を始め様々な権利のないことが寂しい。社会に出てもほとんどが非正規、派遣労働に就かざるを得ない。日本人のみなさんも一緒に考えてほしいだけ」と言います。
 実に切実な叫びではありませんか》(https://www.brasilnippou.com/2022/220226-41colonia.html

右肩上がりで増加する外国人(統計Today No.180「人口等基本集計結果からみる我が国の外国人人口の状況」)

数字を見れば明白な日本という移民大国ぶり

 コラム子は、なにも「外国人移民を受け入れろ」と言っている訳ではない。むしろ逆で「受け入れずにすむなら、受け入れない方が日本のためだ」と考えている。ここで言いたいのは「受け入れていない振りをして、実は受け入れるという態度は外国人に対して失礼だし、いずれ外国人から見限られる」という点だ。
 数字を見れば明白だ。23年10月13日付出入国在留管理庁の「令和5(2023)年6月末現在における在留外国人数について》(4)によれば、昨年6月末現在における中長期在留者数と特別永住者数の合計《在留外国人数は322万3858人となり、前年末(307万5213人)に比べ、14万8645人(4・8%)増加しました》と書かれている。
 日本の人口は1億2570万人だから2・56%が中長期滞在の外国人だ。50人に1人が外国人住民という国であり、立派な移民大国だ。
 「322万人」を都道府県と比較すれば、2020年の47都道府県中の10位静岡県(363万人)の次に来るぐらいの数字だ。
 「世界の移民人口国別ランキング」(5)においてでも世界20位に相当する。このグラフは2021年現在なので、当時の在日外国人は277万人だったから順位は24位。231国・地域のうちで世界20位はかなりの上位だ。
 ちなみに、誰もが認める「移民が作った国ブラジル」だが、現在外国人は130万人しかいない。21年7月12日付アジェンシア・ブラジル「ブラジルの新規移民数は10年間で24・4%増加=現在は130万人の移民が居住」(7)には、《移民はブラジル市場でもより多くの雇用を占めた。2011年には6万2423人だったが、2020年には18万1358人だった。2019年から2020年にかけて、正規市場で移民や難民のために創出された雇用は2万1400人から2万4100人に増加した。12・7%の増加。ブラジルの基礎教育ネットワークに登録する移民学生の数は、2010年の4万1916人から2020年には12万2900人に増加した》とある。
 日本との違いとしては、移民もブラジル人と同様に正規雇用され、ブラジル人児童生徒と同じように教育されることだ。ブラジルの人口は2億1430万人だから、移民人口は0・6%にすぎない。日本の比率のほぼ4分の1だ。

永住する日系人は移民以外の何ものでもない

 日本はすでに移民大国なのに、それを見て見ぬふりして自覚がないことに問題の根源にある。政治家らは言葉だけ「日本は移民を受け入れない」とウソを言い続けているが、実態はとっくになし崩しになっている。日系人向けの査証、技能実習生や特別技能制度を作って受け入れているから、322万人もの外国人が日本に住んでいる。
 まずは「移民」の定義を日本でもはっきりさせるべきだと思う。国連経済社会局は《3カ月から12カ月間の移動を短期的または一時的移住、1年以上にわたる居住国の変更を長期的または恒久移住と呼んで区別するのが一般的です》(3)とする。
 少なくとも1年以上の中長期間、外国に住んでいれば一種の「移民」だ。だが、日本政府は日本に20年住んでいようが、30年住んでいようが、あくまで「一時的な外国人労働者」だと言い張る。だから、彼らは移民ではないから定住化を促進するような受入れ政策は取れないという立場で一貫している。これはコラム子の見方からすれば大きな間違いだ。
 技能実習生や特定技能は確かに年限が決められており、就労できる職業カテゴリーも限定され、家族帯同もできず、いずれ帰国することを前提にしているから、「一時的」といえなくもない。
 だが、こと日系人に関しては1990年の入管法改正によって永住可能な査証が発行されており、職業選択の自由があり、家族帯同が可能だ。世界的な基準に照らし合わせてみればりっぱな「移民」だ。永住ができるビザを出しておいて「移民ではありません」という対応の方がおかしいと思う。
 90年代から日本に住む在住20年、30年の日系人を移民として認めない方が、国際的な人権保護の観点から問題が生まれる。そこに日本社会の歪みがある。
 本来は移民として受け入れるべき日系人なのに、学校も自治体もその受け入れをしてこなかったから、この30年余り日本で暮らしてきた彼らは、いびつな社会環境の中で暮らさざるを得なかった。その間に日本で生まれ育ってきた世代の中には、日本が移民政策を取らなかったことによる犠牲者が多くいる。それに気づいた多くの日系人は、日本を行き先に選ばなくなっている。

『現代の理論』サイト、第18号の神奈川大学名誉教授の橘川俊忠氏「かつて日本は移民送り出し国であった」

「移民の一人一人に対して人間として正当な扱いを保障する」

 JICA「海外移住統計」(8)によれば、明治元年から1942年まで、戦前に中南米・南方方面・北米に海外移住した日本人は77万6304人もいる。うちブラジル移民だけで19万人だ。満州移民や戦後移民を含めればさらに多い。
 今現在、外国に在留する日本人は、外務省の海外在留邦人数調査統計2023年10月1日版(9)によれば、3カ月以上外国に住む邦人と永住者の合計は129万3565人もいる。
 それだけの日本人が外国に移住している。日本人が外国にいって永住すれば、現地政府からは移民として扱われる。だが日本にいった外国人に同じ待遇はない。
 『現代の理論』第18号にある神奈川大学名誉教授の橘川俊忠氏の「かつて日本は移民送り出し国であった」(10)は、次のような一文で締めくくられている。
 いわく《かつて人口過剰を理由に、海外移民を推進し、海外に行ってしまえば自己責任とばかりに移民の保護を放棄してきた国が、今度は人口減少による労働力不足のために他国人を呼び込もうという国になった。その国の政治家・官僚・企業経営者達には、人間は口減らしの対象か、単なる労働力としか見えないのであろう。自国からの移民に対して政治的に利用することはしても、なんら保護の手段を講じようとしなかった国が、他国からの移民にたいして人間として正当な扱いをするようには到底思えない。
 移民の歴史から学ぶべきことがあるとすれば、それは自国であれ、他国であれ移民の一人一人に対して人間として正当な扱いを保障すること以外にはありえない。そういう方向への第一歩は、まず移民の歴史を知ること、そして貧困や窮乏に結びつけられた移民についてのマイナスイメージを払拭することから始まるのではなかろうか》
 橘川氏のこの重い一言は、まさに日本の〝移民政策〟を歴史的に考察した結論といえる。
 海外在住日本人として思うのは、「我々は外国できちんと移民政策で対応してもらって社会生活を営んでいる。ところが日本にいる外国人は移民として扱われない。これは先進国であるはずの祖国として恥ずかしい」という思いが強い。日本は『外国人労働者の受け入れを本当に辞める』、もしくは『移民として受け入れる』のどちらかをはっきりとすべきだと思う。(深)

(1)https://www.pref.gifu.lg.jp/uploaded/attachment/374996.pdf

(2)https://www.nippon.com/ja/in-depth/d00814/

(3)https://www.unic.or.jp/news_press/features_backgrounders/22174/

(4)https://www.moj.go.jp/isa/publications/press/13_00036.html

(5)https://www.globalnote.jp/post-3818.html

(6)https://ecodb.net/ranking/unms_pot.html

(7)https://agenciabrasil.ebc.com.br/geral/noticia/2021-12/numero-de-novos-imigrantes-cresce-244-no-brasil-em-dez-anos

(8)https://www.jica.go.jp/jomm/outline/library/ku57pq00000lx70u-att/statistics.pdf

(9)https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100436737.pdf

(10)http://gendainoriron.jp/vol.18/feature/f12.php

最新記事