日系3世監督が亡き祖母の物語を日本まで行って撮影した短編ドキュメンタリー映画『Kokoro to Kokoro(心と心)』(約15分)は、2022年にローマ短編映画祭の同部門入賞し、同年の東京国際短編映画祭でも短編映画メインコンペティション部門の佳作に選ばれた。それが8日午後5時20分からブラジルの有名映画有料チャンネル「Canal Brasil」で放送される機会に、監督の斎藤ハヤト・アンドレさん(39歳・聖市出身)に5日、作品に込めた想いについてオンライン取材した。(島田莉奈子記者)
本作は亡き祖母シゲルさんとその親友のタカエさんの絆を軸に、斎藤監督が自身のルーツを辿るドキュメンタリー作品。撮影はタカエさんの住む群馬県で行われた。日本語のセリフにポ語字幕、5本目の監督作品だ。
―『心と心』を制作したきっかけは?
【斎藤監督】実は日本が好きじゃありませんでした。周囲のブラジル人から日本人呼ばわりされることがありましたが、生まれはブラジルだし日本語も話せません。僕は日本人じゃなくてブラジル人だと思ってずっと生きてきましたが、一度も日本に行ったことがない両親は日本にアイデンティティを感じており、2人は日本にとても行きたがっていました。なので2017年に両親に日本旅行をプレゼントし、僕も一緒に日本に行きました。
旅行中は家族のルーツを探しまわり、祖母の大親友タカエさんに出逢いました。また、日本語が話せない僕に対してタカエさんは「心と心で通じ合えばいいのよ」と声をかけてくれたのが印象的でした。彼女と接しているうちに、僕のアイデンティティってなんだろうと考えるようになりました。これがきっかけで祖母と親友の物語を通じてアイデンティティを考える映画を作ろうと決意し、2年後、再びタカエさんを訪ねました。
―作品にはどんな想いが込められていますか?
三つのメッセージを伝えたいです。「自分の心を知り、他者と心と心で繋がること」「先祖を敬うこと」「生命のサイクル」についてです。23年に映画の完成や受賞をタカエさんに伝える為に日本に行きましたが、もう亡くなっていました。すごく悲しかったです。でも妻は「生と死のサイクルを感じる」と言ったんです。この時、妻のお腹には僕らの赤ちゃんがいました。生命のサイクルが映画を見た人にも伝わればと思います。
―祖母シゲルさんとの思い出は?
おばあちゃんはマッサージが上手でした。家が近かったので、よくおばあちゃん家に遊びに行ったりして楽しい思い出ばかり。僕にとっておばあちゃんは身近で亡くなった初めての人でもあるんです。1995年、僕が11歳のときに亡くなりました。父親が泣いているのを初めて見ました。僕にはとても大きな出来事でショックでしたね。
―日本での撮影で思い出はありますか?
今回、僕と妻と日本人の友達という小さいチームで撮影に挑みました。ほとんど台本を考えずに挑み、日本語もあまり理解できていないので一種の冒険でした(笑) 編集時にタカエさんの言葉の翻訳を初めて見て意味を理解し、物語を繋げていきました。本当に大変なことばかりでした。
―今後の展望は?
ブラジルにはまだアジア系に対して偏見や差別があります。パンデミックの時は「国へ帰れ」と言われました。道を歩いていても「サムライ、ジャッキーチェン、忍者…」と声をかけられますね。僕自身、幼少期に「日本人! 日本人!」とよくからかわれました。
その為、当時は余計にブラジル人のコミュニティに入りたいと思うようになりました。今後は次世代の為にも映画を通して社会にこうしたステレオタイプについて問いたいです(同作品はCanal Brasilは、Globo Play、Claro TV、Oi TV、Vivo TVから視聴可能)
受賞歴
https://www.imdb.com/event/ev0025446/2022/1?ref_=ttawd_ev_3