欧州で農業従事者による抗議デモが続いている。EU本部のあるベルギー・ブリュッセルでは26日、100台以上のトラクターが路上に繰り出し、タイヤにも放火したりするデモが起きた。ブラジルのメディアも、環境政策や輸入増などに反対する大規模デモが発生と報じている(26日付BOLノチシアス(1)参照)。
欧州の農業従事者がメルコスルとの自由貿易協定締結などに反対してデモを実施、フランスでは伯国などからの農産物輸入で競争力を失うことを恐れた国内生産者からの圧力を受けて、マクロン大統領が自由協定締結に反対を唱えたことは1月にも報じられていた(1日付アジェンシア・ブラジルなど(2)(3)(4)(5)(6)参照)。今回の輸入増反対もこの続きと思っていたが、話はそう簡単ではなかった。
欧州農家にとっての脅威はブラジルやアルゼンチンだけでなく、世界的な穀物生産国のウクライナも含まれていたのだ。欧州諸国はウクライナ支援のための農産物輸入促進を考えていたが、そのような動きが自分達の生活を脅かすと考えた農業従事者達が街頭に繰り出したのだ。
農業従事者の圧力は他国・他地域からの輸入増に対するものだけではない。そのことは、フォンデアライエン欧州委員長が6日、2030年までに化学農薬の使用量を半減するための「農薬の持続可能な使用に関する規制」法案を取り下げると発表したことにも表れている(8日付オルタナサイトなど(7)(8)参照)。
農業従事者にとっては強力な競争相手の出現は脅威だろうし、除草剤や殺虫剤といった農薬類の使用量削減で品質や収量が落ちるといった不安もあるだろう。
だが、日本ではアレルギーに悩む子供でも食べられる作物作りのために無農薬にし、鴨を水田に放すといった工夫をする農家の話を聞く。
また、世界的な出来事として、農薬などの影響で結実に不可欠な受粉を助けたりする昆虫類が減っているとか、空中散布した農薬で地域住民が健康を損ったという話も聞こえてくる。27日付アジェンシア・ブラジル(9)によれば、同日はマリーナ・シルヴァ環境相が、気候変動は食糧生産や食の安全確保にも悪影響を与えると警鐘を鳴らした。
もちろん、扱っている内容や現象は異なる。だが、自分達の利益や収益、簡便さなどを追及し、自分達の生活を守ろうとする姿勢が、昆虫類の減少や健康被害、気候変動や収量減少、はては、支援を必要としている国の作物輸入にまで反対する動きを引き起こさせているのではと考えると、根は一つだとも思うのだ。
また、アレルギーなどで悩む人が増えている中、手間やお金はかかるが、無農薬や少農薬で栽培しているという付加価値をアピールすれば喜ぶ消費者もいるはずだし、隣国や隣人が倒れたりすれば、回りまわって自分達にも不都合や不利益が生じるのではないだろうかとも考える。
綺麗事だけでは生きていけないという人もいるかもしれない。だが、近所にスーパーができて売上が減ったと嘆いていた魚屋が、活きのいい魚を喜んでくれるお客さんがいるからと喜びながら商売をし始めたら、息子が店を継ぐと言い出したという話もある。広い目で見て共生、共存できる社会を望みたい。(み)
(4)https://www.canalrural.com.br/internacional/protestos-de-agricultores-se-espalham-pela-europa/ 1月30日
(7)https://www.alterna.co.jp/113115/ 8日
(8)https://www.jetro.go.jp/biznews/2024/02/34da660b469dfafb.html 13日