ブラジル福島県人会(佐藤フランシスコ会長)は同会館で3日午前、福島県喜多方市の大和川酒造店の顧問佐藤和典さんによる講演「日本酒の生い立ちと作り方」と試飲会を行い、50人余りが美酒を堪能した。当日はニッポンベビーダス社の川添博さんによる講演「日本文化における日本酒の役割」、五十嵐製麺の武藤啓一さんによる「喜多方ラーメン」の説明も行われた。
佐藤会長は「大和川酒造が創立した1790年、ブラジルはまだ帝政時代で会社は一つもありませんでした。日本の伝統を象徴する興味深い酒蔵の歴史を一緒に聞きましょう」と挨拶した。同酒造は、全国新酒鑑評会で8年連続金賞を受賞した日本が誇る実力派だ。
佐藤顧問は東京農大で醸造を学んだ前杜氏(とうじ)だけに、「地元のお米と飯豊山(いいでさん)の美味しい水があって、初めて美味しいお酒ができます」と前置きし、自分たちが田んぼで種まきから田植え、稲刈りをし、それを最新鋭の酒造設備を持つ飯豊(いいで)蔵で精米、麹造り、発酵、絞り、ビン詰め、ラベル張りなどの工程を体験に基づく説得力のある言葉で説明した。
神主を呼んで蔵人が神棚前でお祈りする習慣、軒先に吊るす新緑色の杉玉が茶色に枯れる頃にお酒が出来上がることなども写真と共に説明した。
「ブラジルへの輸出開始から8年になる」と語り、従来は北米やアジアが多かったが、今では海外向けにコンテナ積みする半分が当地向けになるまで成長したという。「弥右衛門」は日本でも当地でも抜群の売れ行きで、中でも赤いラベルの純米辛口は地方の酒蔵の酒としてはブラジルでは一番売れている銘柄だという。
その後、「本醸造寒造り弥右衛門」「純米辛口弥右衛門」「大吟醸辛口弥右衛門」の3種類の利き酒が行われ、寒造りは「一番寒い時に仕込む。お燗でも良く、夏はオンザロックも」、一番売れている純米辛口は「味がしっかりしているので肉料理や油っぽい料理にも合う」、大吟醸は「薫り高い。まず鼻で嗅いで、口に含んで鼻から息を出してみて」と味わい方を紹介し、「飲み比べると確かに違う」などの声が会場から上がった。
質疑応答では「生酒はブラジルで販売できないのか?」に対し、佐藤顧問は「ぜひ飲んでいただきたいが」と前置きしつつ、醪(もろみ)を搾った後に一切の加熱処理しない生酒は酵母が活動を続けているので、味わいが変化し、温度による劣化を招きやすく「要冷蔵」となるが、冷凍コンテナで当地まで運ぶと費用が高く難しいと説明した。
「100年前の製造法との違いは?」との質問に対しては、「昔は精米技術が低く50%精米ができなかった。そこまで削ってデンプンだけになると優しい味になる。発酵温度はできるだけ低い方が良いので、昔は冬しか作れなかったが、今は冷房があるので1年中可能」などと解説した。
また大吟醸用のコメは50%も精米するとの話に対し「もったいないのでは?」という質問が寄せられ、佐藤顧問は「お酒には食用のではなく、それ専用のコメを使います。外皮の部分はヌカとして肥料に、内側の米粉はお団子に利用する」と説明する場面もあった。
その後、川添さんによる日本の文化風習の中でどのように日本酒が使われるかの説明では、結婚式の三々九度のお神酒、祝い事の鏡割りなどが実演をしながら説明され、軽妙なポルトガル語の説明に笑いが絶えなかった。川添さんは「鏡割りの樽や三々九度の道具は無料で貸し出している」と利用を呼びかけた。
最後に五十嵐製麺の武藤さんが「喜多方ラーメン」の製造過程を説明し、「日本三大ラーメンの一つをお試しください」と締めくくり、本場の味を試食した。
来場者の上野三男さん(80歳、熊本県出身)は「普段はワインしか飲まないけど、今日の日本酒は飲みやすかった。とても味わい深かった」、宮谷テル子さん(79歳、福島県出身)も「昔、ブラジル産の日本酒を飲んで悪酔いしてから口にしなくなっていた。普段はワインだが、今日飲んだ大吟醸はとても気に入った」との感想を述べた。