コラム《記者の眼》なぜ福島原発は県名なのか?

 福島県喜多方市の大和川酒造店の顧問佐藤和典さんに「もうすぐ3月11日ですね」と話しかけ、東日本大震災後の風評被害について意見を聞いていて「福島原発には、なぜか県名が付いているんです。だから県全体に影響が出てしまう」という言葉を聞き、アッと驚いた。
 たしかに宮城県の女川原発、新潟県の柏崎原発など地域名だ。県名がついた原発は他にあまりない。これが双葉郡にあるから「双葉原発」などの名前だったら、風評被害の規模はだいぶ違っていたかもしれない。
 「喜多方は原発がある海岸部から100キロほど内陸にあるので、揺れによる被害は多少ありましたが、停電にもなりませんでした」とのこと。喜多方から海までの距離を比べれば日本海側の方が近いぐらいの場所だ。
 同じ「福島第一原発から約100キロ圏内」を見てみると、なんと宮城県仙台市、茨城県水戸市などもあることに気付いた。だが誰も仙台市の作物に規制などしていない。「Fukushima」という名前だけで、福島県内の農産物の放射線検査が今も行われ、その名前のために風評被害が続いている。
 その辺は、科学的な根拠に基づいてそのような判断になっているのだろうか―と根本的な疑問が湧く。
 しかも、どうして喜多方は停電しなかったのかと思えば、喜多方は東北電力管轄で配電系統が異なるからのようだ。
 福島原発は東京電力の施設であり、そこで発電された電力は主に東京に送られる。東京都民のために発電している原発で事故が起きたのに、その風評被害を福島県民が受け続けているという理不尽な状況になっている。

全農福島県本部サイトにある美味しそうな桃の数々(https://www.zennoh.or.jp/fs/product/seasons/seika/)

 特に海外においては、日本の地理などわからないから「Fukushima」というだけで同県産農産物を規制する国と地域が、震災直後にも55カ国もあった。県庁のサイトによれば、福島県の必死の努力や日本政府の働きかけもあって現在はだいぶ減っており、震災前の約3倍も輸出される状態になっている。
 佐藤顧問は「福島はもともと桃、柿、リンゴなどが盛んでフルーツ王国なんです。それが米なども含めて一斉に規制されている。他では検査されていませんから、まあ、逆に言えば、おかげで日本一安全ともいえます」と笑った。
 あれから13年、この理不尽な状況は何とかならないのか――と心底思わざるを得ない。(深)

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