日本の笹川財団やフランスの財団が主催する「Festival européen de documentaires japonais(ヨーロッパ日本映画祭)」で、「食」と「科学」の観点からクジラに迫ったドキュメンタリー映画『鯨のレストラン』(2023年、日本公開:八木景子監督)が6日(土)に上映され、その後に討論会も行われた。八木監督は8年前、日本の伝統「食文化としてのクジラ」をテーマに、世界の反捕鯨思想に対して真っ向から反論して話題となったドキュメンタリー映画『ビハインド・ザ・コーヴ〜捕鯨問題の謎に迫る』を製作した人物。今回の新作上映会は反捕鯨思想の強いフランスの映画祭で選出され、行われた。
本作ではクジラの食材としての魅力だけではなく、環境問題にも触れた。科学的な見地から現代におけるヴィーガンブームと森林伐採を含めた「タンパク源」のバランス問題にも向き合う。自然資源のルールを決める国際会議の主要人物や、それとは無縁な東京・神田の「クジラ専門店」大将らの証言を記録した映画だ。
本作広報によれば、本映画祭の責任者であるフランス人のマイケル・ノル氏は『鯨のレストラン』の選出理由として「まず作品として良い。そして映画を観た後に考えさせられる」と説明した。
上映前挨拶に立った監督の八木景子さん(57歳、東京都出身)は、クジラにまつわる政治的な問題に触れた後、前作を海外で発表した際に、サイバーアタックに遭ったことや、海外の映画祭に選出された後、活動家が映画祭側にデモをすると脅し、選出を取り消されたことがあったことなどを述べた。捕鯨に反対する世界の活動家との壮絶な闘いがあったことを伝えつつ、クジラ食の映画を反捕鯨思想が強い国で上映選考してもらえたことに対して感謝を述べた。
上映会には、クジラを食べることに反対するフランス人や現地の邦人が来場し、上映会後の討論会は白熱した。討論会では「違法ではないのか」、「クジラの捕獲頭数はどうやって決めているのか」などの意見や、「私はクジラを守る活動家であり、毎年、クジラたちが、同じ場所に戻ってきて生活している。歌を歌っている」とクジラに愛情を示す参加者もいたという。
一方、邦人の参加者から「私はクジラを渋谷のお店で食べてきた。科学を無視した世論の矛盾はおかしいと思う」などの意見もあり、それぞれの立場の見方を交換しあった。
最後に八木監督が「『鯨のレストラン』鑑賞後、クジラを食べてみたいと思ったか?」と参加者に問うと、討論会の趨勢とは逆に、会場の約8割が「食べてみたい」と手を挙げた。八木監督はこの反応に対して「監督として、映画を作った甲斐があった」と感慨深そうに述べた。
日本が国際捕鯨委員会(IWC)を脱退する前、同委員会開催地であったブラジルでは、会議開催に合わせて2018年8月に、八木監督の作品上映会を聖市で行った。
八木監督は本紙メール取材に対し、「サンパウロ市での上映会時、現地の方からブラジルでも昔クジラを捕っていたことや、食べていた人がいることを教えてもらい驚いた。新作『鯨のレストラン』も、ブラジルで上映する機会を作って、再びクジラを巡る多様性について一緒に語り合えたらと思っており、その機会を探っている。日本人は縄文時代から国が繁栄するよう願いを込めてクジラを祀っていた。今、まさに、日本の衰退とクジラ食の衰退が比例し、消えてしまわないか、危惧している」と想いを語った。