経済状況が不安定な状態が続くアルゼンチンで、高いインフレ率や貧困に苦しむ人々が、暗号通貨と引き換えに生体データを提供するために、虹彩のスキャンを受ける行列を作っていると、11日付AFP通信など(1)が報じた。
これは、OpenAIのCEOであるサム・アルトマン氏が2023年に共同設立し、米国とドイツに拠点を置くツールズ・フォー・ヒューマニティ社によって開発された、虹彩による生体認証システムを用いた仮想通貨「ワールドコイン」の普及プロジェクトの一環だ。これにより、アルトマン氏が、全世界80億人にワールドコインで「ベーシックインカム」を支給するという壮大なビジョンを描いていると言われる。
虹彩のような生体データは、人間一人一人に固有のものであり、「超高感度」であると専門家は言う。プロセスは簡単で、銀色の球体の前に立つだけで、カメラが目の虹彩をスキャンし、身元確認終了後、まもなくデジタル財布に約80米ドルに相当する暗号通貨の送金を受けとるというもの。
首都ブエノス・アイレスのショッピングセンターでその行列に並んでいたフアン・ソーサさん(64歳、武道教師)は「お金がないからやっているのであって、それ以外に理由はない。やりたくなかったんだけど、年齢的に誰も仕事をくれないし、しょうがないね」とつぶやいた。
アルゼンチン全土に設置された約250カ所のワールドコイン拠点では、ここ数カ月、主に学生、失業者などが連日列をなしている。同社が発表した最新の数字によれば、2024年初頭までに少なくとも50万人の同国人が虹彩のスキャンを受けたとし、これは同プロジェクトに参加した全世界の300万人の約15%を超える数字だという。
しかし、ワールドコインは複数の国の規制当局から厳しく監視されており、ケニア、スペインは相次いで同社に対し、調査が終了するまで生体データの収集を停止するよう命じた。
23年8月26日付G1サイト(2)によれば、実は昨年7月頃からブラジルでも暗号通貨と引き換えに光彩登録をしていた。またポルトガルのディアリオ・デ・ノティシアス・サイト3月8日付(3)によれば、同国では「毎日4千人が暗号通貨と引き換えに光彩検査を受けている」と報じている。
これに対し同社は、データは「高度なセキュリティ機能」で保護されており、収集した情報を販売しないと主張。虹彩を「お金の対価」と見なすのではなく、「世界最大の金融・身分証明ネットワーク」の構築に向けた第一歩だとし、ブロックチェーン技術のおかげで機能するデジタル・パスポートのようなものであり、ユーザーが他の個人情報を共有することなく、オンライン上で自分を識別できる金融ネットワークを構築していると強調している。
虹彩のスキャンを受けたウリセス・エレーラさん(20歳、学生)は、経済的なインセンティブがなければスキャンはしなかったと認め、「虹彩は変えられないものだし、誰がそのデータを持っているのか分からないという恐怖はあるね」と話した。