《記者コラム》「パウロおじさん」爆発的話題に=死後、車椅子で銀行に連れられ

パウロおじさん人形のミーム画像(X)

 ブラジルのネット界隈で現在最も話題の人物といえば誰か?それはルーラ大統領でもボルソナロ前大統領でもサッカーの新星エンドリックでもなく、「チオ・パウロ(パウロおじさん)」だ。その注目度合いはイーロン・マスクとの対決でとうとう国際的な注目を集めるようになったアレッシャンドレ・デ・モラエス判事が唯一対抗できるかというほどのものとなっている。

 「パウロおじさん」が注目を集めることになった事件については18日付け本紙でも報じたが、読者間でもかなりの反響を呼んだ。
 事件は16日、車椅子に乗ったスキンヘッドのパウロおじさん(68歳)と、その姪を自称するエリカ氏が銀行に入るところから始まった。エリカ氏はパウロおじさんの車椅子を押し、窓口へ行くと、パウロおじさんに代わって銀行職員と預金引き出しに関するやりとりを始めた。
 ここまでならよくある光景だが、この時、車椅子に座るパウロおじさんは、誰がどう見ても息がない状態だった。
 エリカ氏はパウロおじさんが生きているように見せるべく、体を触って動かし、「おじさん、しっかりして。書類にサインしなくちゃいけないでしょ」などと話しかけ、1万7千レアル(約50万円)を引きだした。
 対応した銀行職員が「明らかに顔色が悪いですね」と怪しみ、通報。エリカ氏は逮捕された。
 ブラジルに移り住んで14年。奇怪な事件の多いこの国にも慣れたつもりのコラム子だったが、さすがにこの事件は衝撃だった。「こんなゾンビ映画みたいなこと、本当にあるんだ!?」と、驚きと気味悪さが入り混じった気分を覚えた。
 ホラー映画に例えると、ディストピアで人のいなくなった場所に、目の色が変わり、口から血を流して、手と足が同時に出る歩き方しかできない、実質的に死人のゾンビを、主人公が必死に生きた人間のように操っているような、そんな感じだ。ホラー映画の中でも、どちらかといえば笑いを取りに行くタイプのシーンだ。
 さすがにこれには多くの人が度肝を抜かれたか、連日のように報道が行われ、ネット上にもミーム(冗談画像)が溢れることとなった。ミームの中には、AIの画像生成技術を使って、パウロおじさんとエリカ氏を米国の人気人形メーカー「フンコ」の可愛らしい人形姿にしてしまうものまで出てきた。やせ細ったスキンヘッドという、極めて覚えやすいパウロおじさんの風貌が余計にこうした事態を加速させているようだ。
 本来、人の死をネタにするのは不謹慎なこと。だが、ここまで映画や漫画の世界でありそうなことが現実で起こってしまうと、ネタにして騒ぎたくなってしまう群集心理も理解できないではない。(陽)

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