リオ・グランデ・ド・スル州では4月末から続く大雨の影響で、大規模な洪水被害が発生している。同州政府によれば8日までに、死者100人、行方不明者128人、家を失った人16万3000人、避難者6万6000人の被害が出ている。被害状況の確認を行っている同地日系社会関係者によれば、被害地域に住む日本人、日系人の死亡者情報は入っていないが、州都ポルト・アレグレ市にある南日伯援護協会(以下、南伯援協)の会館が浸水被害にあったという。
南伯援協があるアンチエイタ地区は7日には水位が3mにまで達したという。同協会の谷口ヒロシ会長は被害状況について、「被害総額はわかりません。もう随分長く浸水してしまっているので、ほとんど何も残っていないと思います」と語った。
ポルト・アレグレ市に30年以上住む森口由美さん(神奈川県出身)によれば、市街地方面から水が流れ入り始め、協会施設はなす術も無く冠水してしまったという。「援協の巡回診療バスや様々な物資、機材、書類などは恐らく水に浸かっていると思います。こんな事態になるとは誰も想像すらしていませんでした。未だに信じられません」と話した。
同巡回診療バスは、2016年に日本政府から草の根資金の助成を受けて新しく導入されていた。毎年ブラジル南部各地の日系集団地を3千キロも巡って、主に高齢1世400人近くを診療していた。
地元日系社会では被害状況についての情報を手分けして集めているという。現場からの情報によると、6日にはポルト・アレグレ市内にいくつかある排水施設のポンプが動かなくなり、川からの水が急に市街地へ戻りはじめ、それまで無事だった地区もあっという間に冠水してしまった。ひどいところは2メートルの高さまで水位が上昇し、夜中までボートでの救出が行われる事態になった。この時点で市内の80%近くの地域が断水、45%が停電したという。
森口さんの住むアパートでは、浸水や停電は起きなかったが、7日夜に貯水タンクが空になった。現在は個人で貯めておいた水を節約しながら使い、生活しているという。
給水所が再稼働し、一部では給水が復活したが、それでも地区全体では全く足りず、給水車も被害地域を回っているが、交通網が寸断されているため、飲料水の確保が一番の課題になっていると森口さんは話した。
また、交通網の寸断は、他地域からの支援物資の搬入を阻害し、救助者の運搬にも悪影響を及ぼしているという。
治安状況も悪化している。森口さんは「この状況を利用した空き巣や強盗が多発しています。なので、自宅が冠水していても家から出たくないという人が大勢います。救助隊がボートで家まで行っても、住民をまず家から出るように説得しないといけません。これが救助活動を困難にしている理由の一つです」と語る。
平時から治安の悪い地域に救助隊が行く際は、必ず警察が同行するようになっているという。夜は特に危険で、救助活動ができない場合もある。救助活動中の銃撃事件も発生しているという。
避難所には麻薬常習者も多く、「避難所内で麻薬組織同士の喧嘩が起こるなど日本では想像もできないような事態も生じています」と語った。
ポルト・アレグレ市は平均海抜が10mで、排水に多くの時間を要することが懸念されている。
被害地域は州全域に及び、家屋だけでなく工場や耕作地のほとんどすべてが水の下となった。
報道によると、同市のサルガド・フィーリョ国際空港も少なくとも今月末までは再開の見通しが立たっていない。物資の輸送や外国人観光客などの避難には隣町にある軍の基地の滑走路を使うよう、航空会社が調整しているという。
現在不足している物資について森口さんに聞くと「飲料水、衛生用品、下着、清掃用品、そして、これから寒い季節に入るため、毛布類が必要です」と話した。
困難な状況が続く中、森口さんは「救助活動のため、軍隊や他州の警察が多数派遣され始めました。また、自分も家が流されているのに、他の人の救助を手伝ったり、ボートやジェットスキーを持っている人たちが救助活動を行ったりと、一般市民の素晴らしいボランティア活動も展開されています。100カ所以上ある避難所では、受け入れや炊き出し、支援物資の仕分けや配給が行われ、町中の人たちが総出で対応にあたっており、素晴らしい助け合い精神を感じています」と語った。