小説=流氓=薄倖移民の痛恨歌=矢嶋健介 著=147

「何てこった、俺たちを殺す気か」
 ジュアレースが怒鳴った。
「田守が樹木の根元を掘れと言ったからな」
「そうだ、樹木の一、二本倒してもどうってことないさ。辺りが明るくなったじゃないか」
 男たちは、そのまま倒れた大木に腰をかけた。田守は持参した弁当を二人に渡した。後方から、木洩れ日が男たちの背に斑紋を投げかけていた。足元で渓流のせせらぎが光っていた。
 午後は、ジョンの掘り起した砂利を、川岸まで移動するのを田守が手伝い、三人の共同作業となった。水洗済みの砂利は川岸に山と積まれたが、一粒のダイヤモンドも拾えなかった。
「今日は収穫なしか」
 ジュアレースは手の甲で汗を拭きながら、がっかりした表情を見せる。
「情けないこと言うな。気永にやらねばならんこと、もとより承知だろう」
 ジョンはたしなめる。
「とにかく今日はこれまでだ」
 田守が言い、三人は鶴嘴、鍬、篩を草むらに隠して帰途についた。背後の西空から黒い雲が台地を包むように流れてきて、遠くで響いていた雷鳴が、やがて頭上で轟いた。
 
(十)
 
 昨夜は酒なしの夕食だった。買い置きが切れたのだ。三人の男は満たされぬ気持ちで夜を明かした。朝になるとジョンが急に買物に行ってくると言い出した。
「酒なしじゃいられない。他に欲しい物もある。俺が行ってくる。田守、車貸してくれ」
「……」
 田守は気が進まなかった。こんな男に車を貸せば何をしでかすか解らぬ。内心、躊躇していたが、すっかり信頼し合ったように見せかけている以上、嫌とも言えず返事に迷っていると、
「貸してくれ。燃料は俺が払うし、買物も分け前を呉れとは言わない。当分は俺が養ってやる」
 と、自分の持ち金は胴に巻きつけ、半ば強制的に車のキーを手にした。
「田守、大丈夫なのか、車を貸しちゃって」
 ジュアレースが、半ば抗議の口調で訊く。
「嫌とも言えないじゃないか」
「一緒に行けばよかったんだ」

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