本年の移民の日を迎えるにあたり、一言ご挨拶申し上げます。1908年の6月から今年で丁度116年になりますが、既に日系社会には6世世代もおられると聞きます。日本の歴史で言えば、例えば、明治維新(1868年)から116年後は1984年でありますが、その間に日本の近代史の主要な動きがすべて入っていることからすれば、この年月は大変に長いものであることが分かります。1908年の笠戸丸サントス入港以降、日系社会の変遷もまことに大なることに改めて思いを馳せ、先人の足跡をたどることが大切ではないかと思います。
先月、岸田文雄内閣総理大臣が日本の総理として十年ぶりにこのサンパウロを訪問いたしました。実質半日の日程ではありましたが、文協本部での歓迎式典にはじまり、イビラプエラ公園での慰霊碑献花、日本館訪問、ジャパンハウス訪問、サンパウロ大学法学部での政策スピーチ、そして経済セミナー出席等、大変充実した日程をこなされました。岸田総理ご自身は、2013年に外務大臣として来聖され、その時も慰霊碑への献花や移民史料館を訪問なさいましたが、再び十余年を経て、このサンパウロの地で日系社会の皆様と親しく接する機会をもてたことは誠に素晴らしいことでした。訪問の成功に向け様々にご協力、ご尽力くださいました各位に、改めて心からお礼申し上げます。
さて私は、昨年11月に着任して以降、様々な日系社会の方々とお会いする機会を頂いてきました。そして、年始の挨拶において、「先人敬幕」という言葉を書かせていただきましたが、これまで半年余りの間に実に多くの日系社会及び関係の人々にお会いすることを通じて、これまでブラジルで地歩を築いてこられたパイオニア達―今は亡き先人たちの存在を感じることが少なくありませんでした。
例えば、モジ・ダス・クルーゼスの秋祭りは、大変な盛況で日系農家の方々が育てられた野菜、きのこ類、花卉などが所狭しと並べられ、来場者が次々に買っておられましたが、これらの生産物も他ならぬ日系移民の先人達が、自らの人生を捧げてこられたお陰なのであります。ブラジルの輸出の約半分は農産物など農業関係であると言われていますが、つまりは、世界におけるブラジルの発展は、日系移民の方々なくしてはあり得なかったと言っても過言ではないと思います。以上一例として農業について申し上げましたが、産業界、法曹、アカデミアの世界、芸術、武道、スポーツ界等々凡そあらゆる分野についても、そこには日系先達の足跡があります。
私は、この記念日に改めて厳粛な気持ちでこれらの先人、先輩達に感謝と尊厳の念を捧げたいと思います。