【日本移民の日】《記者コラム》投票まで4カ月、サンパウロ市市長選を占う=ボウロスVSヌーネス本命=タバタ、マルサル、カタギリも

 2024年の今年、政治上での最大の話題といえば市長選、とりわけ国内最大都市であるサンパウロ市市長選はとりわけ大きな存在だ。10月の投票まであと4カ月あるが、現時点での状況を占ってみよう。

【パウリスタ大通りの新盟主のボウロス氏】

PSOLのボウロス氏(本人の公式インスタグラムより)

 今回の選挙を考える際、筆者の頭によぎるのはどうしても「パウリスタ大通り」のイメージだ。今でこそ「サンパウロ市の金融の街」といえばファリア・リマ大通りだが、パウリスタ大通りもサンパウロ工業連盟(Fiesp)やサフラ銀行の大きな社屋の目立つサラリーマン、金融の街のイメージだった。そういうところに市内一の商店街が並ぶという、東京で言うところの兜町みたいな街だった。
 セントロからアウグスタ街は元々、ファッションや美容、若者文化の発祥の地だった。だが近年は、フレイ・カネッカ街でとりわけ多く見られるLGBT系コミュニティの印象が強くなった。
 こうした層の支持を集めているのが、社会主義自由党(PSOL)の政治家だ。女性政治家の論客のサミア・ボンフィン下議やトランスジェンダー議員のエリカ・ヒルトン下議もそうだが、ホームレス労働者運動(センテット)を率いて台頭した同党のリーダー、ギリェルメ・ボウロス氏が、現在のサンパウロ市市長選の支持率でトップに立っている。
 PSOLは今や、サンパウロ市やリオ市などの大都市に限るなら、伝統的な労組主体の支持基盤の労働者党(PT)よりもネット戦略や通りでのアピールのうまさで上回る。ルーラ大統領があえてPTの候補者にこだわらず早々にボウロス氏支持を決めたのもこうした理由からだろう。投票者が若くてネット情報に強い層だけなら、彼がダントツで勝利していただろう。

【マルフ以来に強い保守の支持基盤を味方につけたいヌーネス】

MDBのヌーネス氏(本人の公式インスタグラムより)

 ただ、簡単にはそうはならないだろう。それこそ古くからのパウリスタ大通りを知るような世代では、やはりビジネスに強いタイプの実務エリートが求められやすい。そういう人たちにはやはり現職のリカルド・ヌーネス氏(民主運動・MDB)の支持が強くなるだろう。
 本来ならばここで民主社会党(PSDB)の政治家が支持率争いに加わってくるはずなのだが、ヌーネス氏が2020年に副候補だった時の正候補ブルーノ・コーヴァス氏が2021年に急逝して以来、同党には財界、産業界を牽引できるだけの存在がいない。そうしたことからブルーノ氏が信頼を寄せ、さらに保守、とりわけ福音派に強い支持基盤を持つヌーネス氏にどうしても白羽の矢が立つだろう。
 また、ボルソナロ前大統領の支持が加わったのは、同氏に強い拒絶率があるとはいえ、ヌーネス氏には結局のところ有利だ。それはボルソナロ氏がパウロ・マルフ氏の評田を継承しているとのデータがあるからだ。それは市のセントロ寄りの東部や北部にかけての、20世紀初頭からの移民居住区では軍政時代以来、マルフ氏の強い地盤となっている。この地域が2022年の大統領選の際も、住民の6割以上がボルソナロ氏に投票したエリアとなっている。実際、ボルソナロ氏が政治家人生の中で最も長く在籍したのもマルフ氏が率いた進歩党(PP)でもある。
 そうしたことも頭にいれてか、ルーラ氏がボウロス氏の副候補に極南部の貧困層に強い元サンパウロ市市長のマルタ・スプリシー氏を迎えて対策を打っているのも興味深い駆け引きだ。ルーラ氏は2022年の自身の大統領選の際、「ミナス・ジェライス州が鍵になる」と宣言し、実際、同州での接戦をものにした。今回もこの読みが当たるかにも注目が集まるところだ。

【本命以外の候補たちにも楽しみな存在】

 数多くの候補者が出馬することでも有名なサンパウロ市市長選だが、今回の選挙も本命以外の候補にも楽しみな存在が並んでいる。

自らの出生を語る動画で、バス運転手だった父(上)を語るタバタ氏(PSB、本人の公式インスタグラム)

 まずはタバタ・アマラル氏(ブラジル社会党・PSB)。米国ハーヴァード大卒の31歳の才媛と言うだけでも話題性は十分だが、左派候補でありながらもビジネス関係者からの信頼も厚く、サンパウロ州知事を長く務めたジェラルド・アルキミン副大統領のお気に入りとしても知られている。
 そんなタバタ氏は中道左派でありながらも、実は急進左派のボウロス氏がサンパウロ大学有名教授の息子という比較的裕福な家の出身で、タバタ氏がバスの運転手の娘という真逆の出自の事実があるのも興味深いところだ。

市長選出馬表明したら「殺す」と脅しが来たと投稿するパブロ・マルサル氏(本人の公式インスタグラムより)

 サンパウロ市市長選では2010年代、福音派代表として有名なセルソ・ルッソマノ氏が選挙直前までの世論調査で圧倒的な支持率を得て「あわや市長か」となる瞬間があったが、自己啓発家のネットのインフルエンサー、パブロ・マルサル氏がその系譜を引き継ぎそうな予感を漂わせている。同氏は熱心なボルソナロ支持者でありネットでの有名人であることからヌーネス氏の票を奪いそうな勢いだ。同氏の出馬政党が2021年に急死したサンパウロ市市長選の名物泡沫候補レヴィ・フィデリックスが党首を務めた労働刷新党(PRTB)であることにも注目だ。

ウニオンのカタギリ氏の投稿(本人の公式インスタグラムより)

 6月7日付エスタード紙によれば、若干28歳で連邦下院議員に堂々2期目という日系キム・カタギリ氏(ウニオン)は、サンパウロ市市長選への立候補を巡って党内に分裂があることを認めた。ウニオンは全国レベルでリカルド・ヌーネス市長(MDB)の再選への支持を擁護している。カタギリ氏はプレ候補として自ら名乗りを上げているが、党公認は危うい状況だ。本人は「この行き詰まりは来月の党大会中に解決されるだろう」と語っているが、前途は多難だ。
 最後はやはりジョゼ・ルイス・ダテナ氏だろう。バンデイランテスのニュース番組「ブラジル・ウルジェンテ」キャスターを長年務め、お茶の間の有名人であるダテナ氏は過去、サンパウロ市市長選2回、上院議員選2回の出馬が有力視されていたがいずれも断念。今回も当初はタバタ氏の副候補になるところが、有力候補者のいないPSDBに担ぎ出される形で出馬の運びとなっている。まだ正式決定でなく、土壇場での心変わりが日常茶飯事のダテナ氏だけにまだわからないが、出馬なら選挙を盛り上げる存在にはなれるだろう。(沢田太陽)

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