南大河(RS)州の大水害は世界中の注目を集める自然災害の一つとなり、国内外から支援の手が伸ばされている。その注目度の高さは、同州がブラジルでも特に、移民の影響を色濃く受ける州であることと、気候変動への世界的な関心の高まりとも関係がありそうだ。
欧州移民の影響を色濃く受ける州
RS州は、習慣から建築に至るまで、様々な面で欧州移民の影響を受けている。最初は先住民族やイエズス会の宣教師、辺境開発を目指すバンデイランテスしかおらず、近隣諸国から侵略され、占領され易かったため、ブラジル政府が土地法を用意。人口の少ない地域に移民の定着を図った。
これにより19世紀以降、イタリア人やドイツ人に加え、ポルトガルが植民地化したアゾレス諸島からのアゾレス人(ポルトガル人やオランダ人、フランス人、スペイン人らを含む)の移住が増え、先住民族やポルトガル人、黒人奴隷とも混血化し始めた。
少数派だがスペイン人やポーランド人、ロシア人、ユダヤ人、アラビア人、日本人、アルゼンチン人、ウルグアイ人なども住んでいる。
移民で生まれた四つの文化地域
ウキペディアによると、RS州の人口比率は、白人82.3%、褐色11.4%、黒人5.9%、黄色人と先住民族0.4%で、文化的に四つの地域に分けられるという。
南部と西部、パンパ地域に広がる「文化地域1」は17世紀頃から占領が始まった。主な民族はポルトガル人とスペイン人で、アフリカ人やアゾレス人も含む。
イエズス会の伝道で始まった牛の飼育は最初の定住の主要要素で、牛や牧場所有者はポルトガル系ブラジル人かスペイン人、労働者はポルトガル系スペイン人か先住民族、アフリカ人奴隷だったという。
文化的にはヒスパニック系に近いが、ガウーショと呼ばれる同州人に不可欠なシマロン(お茶)は先住民の文化や習慣の影響を残したものだ。地域に定着したダンスや音楽が特徴の祭りもある。
19世紀以降にドイツ系移民が定住した「文化地域2」は中東部に広がり、農業が主産業だ。最初は分散した植民地だったが、やがて、木造の家、小規模な土地での農業生産、家庭や料理、祭りや方言まで、ゲルマン民族の文化的特徴を持つ地域となって行った。
イタリア系移民中心の「文化地域3」はセラ・ガウーシャと呼ばれる山間部やサンタマリア周辺の州中央部に広がる。植民地から発展した市の大半は小さいが、カシアス・ド・スルやベント・ゴンサルヴェスは規模が大きい。この地域はブドウの栽培やワインの製造、観光で栄え、同州でも裕福な地域となっている。
中東部と北東部に定住したドイツ系移民とイタリア系移民は、農業生産のために労働力が必要だったこともあり、出生率が高く、時間と共に人口が増加。新たな土地を求めて地域を離れたドイツ移民やイタリア移民の子孫やポーランドからの移民、ユダヤ人と日本人による集団入植が広がったのは州北部の「文化地域4」だ。これらの新植民地は多様な習慣や背景を持つ人が多く、単一民族の優位性は見られない。
全文化地域に損害を与えた大水害
4月末からの豪雨による大水害は同州史上最悪、ブラジルでも1、2を争う自然災害となったが、この大水害は様々な意味で人災ともいえる。
ポルト・アレグレ市では、排水ポンプの半数以上が機能せず、壊れた水門から流れ込んだ水を排出できないという事態も発生。標高が低い地区では1カ月後も水がひかなかったのは、グアイバ湖の水位が史上最高値を更新したためだけではなく、相対的に標高が低く、水門が近い、排水設備が不十分という、内水氾濫が起こり易い場所の条件を全て満たしていたためでもある。
その背景には、国連や11月のG20でも取り上げられる気候変動、地球温暖化と切り離せない出来事で、世界各地で発生回数が増え、規模も大きくなっている豪雨や水害の一つだからだ。
大豆などの生産量を増し、家畜の飼育数を増やすための農牧地の開発、拡大のための森林伐採や、アスファルトやコンクリートで地表を覆った土地が増えたことで、地面や木の根が吸収できる水の量が減ったり、木の根が支えていた土壌が崩れたり地滑りを起こしたりしやすくなっている点でも人災といえる。
教訓を生かした再建・復興策を
ルーラ大統領は6日に行った4度目の被災地訪問の際、家を失った人達のための家は、ハイリスクの場所に建てるといった、過去の過ちの反復を避けなければならないとも主張し、「私達は多くを知らないままこの場所に住んでいたが、自然が警告してくれた。被災者への家はもっと安全な場所に建てるべきで、ここは水のためにとり分けておくべきだ」と語った。自然が与えた警告に謙虚に耳を傾ける姿勢は全ての対策に必要だ。
RS州政府は、家を失い、避難所にいる人達のための仮設都市建設を提唱しているが、この都市は高台に造るだけでなく、太陽光発電用パネルを設置し、温室効果ガスの排出量を削減する、雨水が地面に染み込むような舗装を行うなどの工夫も必要だろう。
雨水が染み込むような舗装は、5月12日付G1サイトなどが報じた「スポンジシティ」構想でも言及されている。スポンジシティは中国の兪孔堅(ユ・コウケン)設計士が提唱しているプロジェクトで、農場面積の20%を貯水システムとしたり、多孔質の材質で舗装した浸透性の領域を広くとるなどして、雨水をすぐに保持できるようにする。
植生を利用して一連の湖を作り、川の流れを遅くすることで、自然が水を吸収できるようにする。水が破壊を引き起こすことなく流れられるよう、水をある程度の期間閉じ込めておくことができる浸水可能な施設やエリアを造り、家屋に浸入する前に地下に吸収されるようにするという、3ポイントを意識することで、自然によって水をコントロールさせるとしている。
5月31日付G1サイトによれば、科学者達は「将来は既に来ている」とし、異常気象に対処するための団結と努力を呼びかけている。(鈴木倫代)
(2)https://pt.wikipedia.org/wiki/Demografia_do_Rio_Grande_do_Sul