南米ボリビアの行政首都ラパスで26日、大統領官邸が兵士に襲撃されるクーデター未遂事件が発生した。約3時間後、襲撃を率いた前陸軍司令官が逮捕された。ボリビアで株式会社伊島を経営し、約30年同国に在住して政治経済情勢に詳しい島袋正克さん(71歳、沖縄県那覇市出身)にクーデター未遂に対する現地の見方を聞いた。(仲村渠アンドレ記者)
ボリビアのサンタクルス在住で貿易企業を経営する島袋正克さんは、在京のラテンアメリカ協会のセミナーでたびたび現地情勢をオンライン講演するなど、南米通で知られる。今回のクーデター未遂についてコメントを求めると、「シナリオの悪い政治劇だった」と独自の解釈をした。わずか3時間ほどで終結し、その後多くの国民が「自作自演」との見方を広めたという。
実際、クーデター未遂はネットミームとして拡散され、誕生日風の劇への招待状として出回るほどだ。島袋さんは「クーデターとして信じている人は少ない」と話す。
島袋さんは、軍が撤退した後にルイス・アルセ大統領が迅速に大統領府バルコニーから送ったメッセージにも疑問を投げかける。
さらに「副大統領が『大統領は逃げなかった』と称賛していたが、エボ・モラレス元大統領がメキシコに亡命したことを意識したのではないか」と指摘する。
「全体的にクーデターらしくなかった」と続ける。「テレビで映像を見ていましたが、緊迫感がなかった。市民の死亡がない。ガスは撒いたけど、大きな威嚇がない。装甲車で大統領府の扉に突っ込んでいましたが、デモンストレーションのようだった」と振り返る。
「そもそも、このような非常事態であれば、まず官僚を呼んで考えるのではないだろうか。私は政治家ではないが、企業であれば慎重に考えるはず。政治でも普通そうするはずなのでは」と迅速に行われた対応をむしろ疑った。
BBCでは反乱軍を率いたリーダー、フアン・ホセ・スニガ前陸軍司令官がアルセ大統領に依頼されたと述べたことが報道されている。島袋さんは「このようなことになるのは目に見えている結果だ」と話す。
島袋さんは、来年に大統領選挙があることから、「どっちがやったか分からないが、やはり来年の選挙のためを狙ってやった可能性がある」と示唆する。「アルセ大統領だとしたら幼稚、エボ元大統領がやっていたとしたらすごく狡猾だ。いずれにしてもどっちがやってもアルセ大統領の立場が悪くなっただけ」と述べた。
現在のボリビアは経済危機に直面しており、アルセ大統領の支持率も低下している。国民の生活では、外貨と燃料不足が深刻な問題となっている。島袋さんは過去のアルゼンチン経済危機と比較し、「非常に似ている」と語る。
ドル規制の影響で、ドルの引き出しやドル決済が停止しており、外国送金手数料が1 0%から25%に高騰している。工業製品は全て輸入品のため、インフレも深刻化している。
燃料に関しては、燃料補助金の膨張により燃料輸入が経済を圧迫し、ガソリンやディーゼルの不足も発生している。クーデター未遂事件は、政治情勢をさらに混乱させる可能性がある。
島袋さんは、「このままでは経済がさらに悪化し、社会不安が高まる可能性がある」と懸念している。