spot_img

「ブラジルのデーモン閣下」タトゥーアーティスト・ジアボン=悪魔に肉体改造して心は天使になった男「オマエヲ ロウニンギョウニ!」病院で悪魔祓いされた過去も=銀行や空港の金属探知機が鬼門

オンライン取材に応じたジアボン、画面越しにもド迫力
オンライン取材に応じたジアボン、画面越しにもド迫力

 なぜこんなおどろおどろしい容姿に、自ら肉体改造しなければならなかったのか――削がれた鼻の断面は露出し、口元からは鮫のように尖った銀色の歯が覗く。剃り上げられた頭からは2本の角が生え、顔面の至る所に鉄鋲が刺さっている。特殊メイクの被り物ではなく、本人の地肌だ。眼鏡の奥の眼球には白目が無く、異様に黒く大きな瞳がこちらを見つめている。サンパウロ州海岸部プライア・グランデ在住のタトゥーアーティスト、ジアボン(大悪魔の意、49歳)は、度重なる肉体改造手術を経て〝悪魔の容姿〟を手に入れた。彼は昨年、世界で最も多くのインプラント(角を模したシリコン樹脂など)を頭に埋め込んだ男としてギネス認定され、ブラジルで話題となった。本紙では今年4月10日付けで彼の経歴を紹介し、日本のネット読者を中心に多くの反響を得た。4月29日、オンライン取材が実現。実は日本文化好きな、その真の「人物像」に迫った。
 ジアボンは、実は裕福な家庭に生まれ、天使に由来する「ミシェル」という名を授かった。若くしてコカインを覚えて身を持ち崩し、7年にわたる路上生活を経験した。そんな彼のことを心配し、薬物依存からの更生を願う友人たちが費用を出し合い、入院治療を含む脱薬物依存プログラムに参加した。それを通じて「誠実な人間になりたい」と強く思うようになり、以来、薬物とは無縁の生活を送っている。

悪魔化する前のジアボン(instagramより)
悪魔化する前のジアボン(instagramより)

 やがて趣味が高じてタトゥーアーティストとして生計を立てるようになった。自分の体にも様々なタトゥーを彫り込み、体の約8割にタトゥーが入っている。
 別の趣味である映画鑑賞の影響から、悪魔や吸血鬼、オークなどの怪物たちが持つ不気味な造形に対して美的な憧れを持つようになった。
 40歳の時に一念発起し、頭に角を生やす第一回目の「悪魔化手術」を受けることを決めた。
 「なぜ決めたのか」とその時の心境を尋ねると、「日本人もかつては和服を着るのが普通でしたが、今ではみんな洋服を着ているでしょう。初めて洋服を着た日本人はきっと世間から奇異の目で見られたと思います。性別を変える手術がだんだん普通になってきているよね。ボクにとってはあれと同じだ。近い将来世間の理解も進み、街中でボクのような〝悪魔〟をあちこちで見かけるようになるよ」と理路整然と答えた。
 ジアボンに悪魔化手術を行うのは妻で整形外科医のカロル・プラドさんだ。これまで受けた手術の8割は彼女が担当。カロルさんは「女悪魔」を自称し、ジアボン同様に多数の身体改造手術を受けている。2人は「世界で最も身体改造したカップル」として仲良くギネス記録に認定されることを目指しているという。
 ジアボンは、「外見が悪魔に近づいていくに連れ、むしろ『人間とは何か』を考える機会が増えた」という。
 その具体例を尋ねると、次のエピソードを語った。悪魔化手術が始まってしばらくした頃、街中で頭から血を流して佇んでいる老人と出くわした。心配になり事情を聞けば、家で転倒して怪我をしたので、絆創膏を買うため薬局に向かう途中だという。
 老人の怪我の具合は酷く、ジアボンは老人を介助しながら最寄りの病院に連れて行った。無事に手当が行われるのを見届け、ジアボンが病院から出ようとした時だ。不意に見知らぬ女性から「イエスの名において叱責を受けよ!」と『悪魔払い』の言葉をぶつけられた。女性はジアボンが親切にも老人を助けた帰りであるということを知らず、その風貌に驚き、思わず言葉を発してしまったようだ。

足に障碍を持つ愛犬から顔を舐められ、至福の表情を浮かべるジアボン(instagramより)
足に障碍を持つ愛犬から顔を舐められ、至福の表情を浮かべるジアボン(instagramより)

 かつて人間の姿をしていた頃を思い返せば、父が危篤状態であると知らされても心が動くことはなく、会いに行かなかった。薬物依存も人間時代の話だ。
 悪魔の姿となった今では、むしろ妻と子供との時間を何よりも大切にし、自宅で両後ろ足に障害を持つ犬の保護も行っている。毎朝4時に起きてお祈りや犬の世話、運動を行い、少肉多菜の健康的な食生活を送っている。「私がいま考えていることは、子供たちに何を遺してあげられるかということです」とも。
 2023年に登記所で改名手続きを行い、「ミシェル」から「ジアボン」に本名を変更した。
 悪魔となったことに後悔は無いが、生活する上で発生する細かな支障には手を焼く。例えば銀行の入り口にある金属探知機でも、必ず反応するので係員が来るのを待たないと入れない。中でも国内外のイベントに参加するために利用する空港は鬼門で、身体に埋め込んだ金属製装飾具のせいで金属探知機が必ず反応し、顔認証もできないため、係員に個別対応してもらっているという。
 取材日の翌週にはボリビアのタトゥーイベントに参加する予定だと言い、「80~90年代にブラジルで流行したタトゥーデザインの多くは日本文化がモチーフになっていて、機会があればいつか日本に行ってみたい」と日本とのタトゥー文化交流にも意欲を示す。
 日本文化に対する親しみも強く、映画『ラストサムライ』を10度は観たという。「日本食は大好き。毎朝寿司を食べてもいいぐらい。ただし、わさびだけは苦手だ」とおちゃめな一面も。
 ジアボンと話していて感じるのは、その風貌からは想像できない精神的な落ち着きと教養の高さだ。「私はイエスを信じています。闇の邪悪な存在を偶像化し、それに傾倒したことは一度もありません」と聖書を片手に語る。悪魔崇拝をしていると誤解されるが「聖書のどこを読んでも、私の様な姿の悪魔は出てきませんよ」と凶相に不似合いな落ち着いた笑みを浮かべた。
 天使の名を親からもらうが、麻薬中毒になるなどその期待に沿えず苦しみ、逆に自らを悪魔に改造する中で、心は天使になろうとする悪役哲学者に思えて来た。
 インタビュー終了間際、日本のネット読者の主な反応を伝えることに。日本を代表する悪魔、デーモン閣下との共演を望む声が多くあったことを伝えると、知っているらしく興味を示した。同氏の決めセリフを教えると、たどたどしく「オマエヲ ロウニンギョウニ シテヤロウカ!(お前を蝋人形にしてやろうか)」と思いのほか気に入った様子。「次はもっと流暢に決め台詞を言えるように家で練習しておくよ」と朗らかに約束し、怖いがどこかホッとする笑顔を浮かべた。
 インタビューの様子をまとめた動画を本紙YouTubeチャンネルで公開中。

最新記事