ブラジル日本商工会議所協賛企画=現地で活躍する日系企業の今(31)=戦前からの歴史持つ日立南米社

日立のロゴマーク
三好康敦社長

 現地で活躍する日系企業の今を伝える本連載の第31回目は、日立南米社の三好康敦(ミヨシヤストシ)社長(54、千葉県)に話を聞いた。同社が法人として設置されたのは1982年だが、南米の拠点としてサンパウロに進出したのは1940年にさかのぼる。現在は手薄だった南米の事業ポートフォリオを更新して、最新のIT×OT(制御・運用技術)×プロダクトを組み合わせて社会課題を解決する「社会イノベーション事業」を通じて、この4年間で売上げは4倍、従業員数も約8倍に増加した。

南米進出は浄水用ポンプの販売から

 日立グループは現在、南米では5カ国(ブラジル、ペルー、アルゼンチン、コロンビア、チリ)で事業展開し、ブラジルには5法人(日立南米、日立エナジー、日立ヴァンタラ、日立ハイテク、日立マイコム)と2工場を有する。グアルーリョスにある変圧器の製造工場は世界の日立エナジーの工場の中でスウェーデンに次ぐ2番目の規模を誇る。南米事業はデジタルシステムとサービス、変圧器や電力の制御機器の製造とそのサービスが中心で、2023年の販売はブラジルが南米の65%を占めた。
 日立が最初に南米に進出したのは1940年で、サンパウロ市に水を供給する浄水用ポンプを販売したのが始まり。その後、1960年代から70年代にかけて製鉄所向けの設備を日本からブラジルに供給、70年代後半にはサンパウロ州サンジョゼ・ドス・カンポスに日立アール・コンディシオナードが空調設備の製造工場を開設した(2015年以降ジョンソンコントロールズとの合弁事業へ移管)。
 80年代には今日のデータインフラストラクチャの専門会社である日立ヴァンタラの前身の日立データシステムズが進出し、データとテクノロジーで持続可能な社会の実現と人々の幸せの両立に貢献する。

石油ガス関係の圧縮機システム

南米の事業ポートフォリオの再構築

 日立グループは「優れた自主技術・製品の開発を通じて社会に貢献する」という企業理念のもと、サステナブルな社会の実現をめざし、社会イノベーション事業を推進している。新しい時代の事業ポートフォリオに変更する中で、2020年にはスイスの重電大手ABB社のパワーグリッド(送電システム)事業買収によって、先駆的な電力技術における新しいグローバルリーダーを創造するための合弁会社が設立された。
 三好社長は「リオデジャネイロの観光名所ポン・デ・アスーカルにあるロープウェーは、1912年にABB社によって電化されました。日立が創設された1910年は日本が欧米に追い付くために工業化に躍起の時代でしたが、ヨーロッパは既に海外で事業を展開していました。国際社会で日本の工業の歴史は浅いといえ、ABB社の経験値を日立に取り入れられたことはポジティブな事だと捉えます」と話す。

日立エナジーブラジル社の納入した変電所

現地人経営陣主体の現地に根付いた経営へ

 日立グループはグローバル化で社外の取締役や執行役員も含めて国際化の流れにあり、海外拠点では国籍を問わず現地のことが分かる人を積極登用している。
 「複雑な税制のように、海外から来た人がブラジルで感じる違和感を知り、同国の発展を考えて他国とのギャップを改革していくために現地人経営者は大事です」と言う三好社長は、1973年に父親がブラジルに出向したことで3歳からブラジルで生活してきた。
 当時は日系企業のブラジル進出ブームで、日本は高度経済成長期を経て発展途上であったが、サンパウロの中心街では既に多くのビルが立ち並び、大都市に覚える印象を振り返る。それから約半世紀が過ぎ、ブラジルの日系企業も現地に落ち着き、今後さらにブラジルに根差して成長してゆくために、各社で現地人経営者が選ばれるケースが増えてきた。

Instituto Amanhecerの写真

社員が地域密着で人に優しい社会づくり

 ブラジルの日立エナジーは、ABB社が1998年に設立したNPOインスティトゥート・アマニェセールの社会事業を継承した。同NPOは日立エナジーの寄付により、グアルーリョス工場の敷地内で社会的に脆弱な立場の子どもたちに教育を通じた社会プログラムを実施している。
 これまで7歳から15歳まで400人以上の青少年に、課外活動や社会見学、様々な立場の人々に話を聞く機会などをつくり、15歳以上には工場に勤めながら職業訓練校に通えるプログラムで地域社会の2千人以上に影響を与えてきた。
 「最近はこの様な取り組みが若い社員の仕事へのモチベーションを高めます」と、同社でも各自の得意なことを活かしたメンタリングとしてNPOへの参加を積極的に呼びかけている。(取材/大浦智子)

日立南米社の概要
正式名称:
Hitachi South America Ltda.
所在地:
事務所 – サンパウロ、ブラジルの工場 – サンパウロ州グアルーリョス、サンタカタリーナ州ブルメナウ
設立年月:
1940年
従業員数:
1500人
事業内容:
電力とITを主としたB to B向けの社会インフラ事業
サイト:
https://www.hitachi.com.br/

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