村上正朋物語=南米浄土宗イビウーナ日伯寺の土地寄進者《4》

イビウーナ日伯寺(出典: 富田リカルド健一)

18.浄土宗の開教拠点と考えた場合

(a)現在(1997年時)、イビウーナ地域における別院日伯寺の檀信徒は、近隣の郡も含めると約50家族ある。又、イビウーナ郡に約700世帯の日系社会を中心に、サンロッケ、マイリンキ、コチア、バルジェングランデ、ピエダーデ等の隣接する各郡に、主に農業を中心とし、日本語が通じる日系人約1500家族が在住している。この地域の日本由来の宗教施設として、イビウーナに生長の家の練成道場はあるが、仏教寺院は一ヵ所も無く、浄土宗の開教地点とすれば教線拡張出来る可能性は大きい。
(b)別院日伯寺ではボーイスカウト団の再発足(※1997年8月再発足、2000年休団)をすることにしているが、治安の関係でキャンプ地の確保が必要である。又、別院の檀信徒の週末の慰安を兼ねた家族ぐるみの教化、非日系ブラジル人の合宿念仏教化への活用等々が考えられる。
(c)10ha以上の広い面積と、自然と安全に囲まれて、将来は檀信徒を中心とした老人福祉施設等の建設を考えることが出来る。
(d)寄進される予定地は現在農耕されている爲に更地として考えられ、自然環境保護法による樹木の伐採禁止の対象とならず、その土地の100%を如何様にも利用することが出来る。(現在は、全体の20%を自然保護区域として保全する義務がある)又、その周辺は逆に伐採出来ない森林が多く、開発ができないことになっている。公害の多い大サンパウロ在住者の最も求めている、安全な大自然がそこに在り、心が洗われる様な自然環境である。
(e)寺院の所在地として、イビウーナ市より20km地点は若干不便である感は否めない。しかし一方では、心を洗う場所として、大自然の中で別時念仏等、ゆっくり出来得る貴重な場所とも考えられる。

お盆法要中の櫻井聡祐主任開教使(出典: 櫻井聡祐)

19.寺院名、山号、院号等について

 故村上正朋の生前の思いなどを考慮し「正葉山高徳院 イビウーナ日伯寺」とする。(尚、山上に建立する念仏道場を「選擇念佛堂」とする。)
補足1:山号「正葉山」は、正朋の「正」にふるさと葉山村の「葉山」を足し、ブラジルにおいて、誰にとってもまさしく「ふるさと」となるところ、という意を込めてつけられた。「高徳院」は正朋氏の戒名の院号。
補足2:2ページに前述した、葉山村にある臨済宗妙心寺派の寺院の山号は「高徳山」(2023年櫻井開教使葉山訪問の際に確認)、奇しくも同じ「高徳」を名乗る寺であった。
 次に浄土宗開教振興協会会報「開教」1999.Vol.17 特集南米開教45周年の歴史の15頁に掲載された南米浄土宗イビウーナ日伯寺主任開教使の櫻井聡祐の投稿記事である。
 昨年(1998年)8月27日、南米開教45周年を記念してイビウーナ日伯寺が開基されました。
 未だ具体的にお寺らしいものはありませんが、早くも地元の方々より期待と喜びの声があがっております。
 日本の皆様は、ブラジルと聞くと熱帯ジャングルを思い浮かべられるでしょうが、イビウーナ日伯寺の土地は、今やサンパウロの人々の憧れの保養地となりつつある爽やかな気候のイビウーナ郡部で最も高い標高約1200m、緑の美しい日本の山村のような山間にあります。
 現在このイビウーナ近隣地域には。約1500家族の日系在住者が農業を中心に活躍されており、その内50家族ほど檀信徒の方がおられますが、ほとんどの方が元は他宗派であります。どうしてお宗旨替えなさったのか、と聞きますと、大抵の方は「丁寧にお勤めしてくれるから」、「お寺はサンパウロで遠いけど、お参りして気持ちが良いから」とおっしゃいます。そのサンパウロ別院にお参りされる他の多くの方々も、お寺の持つ雰囲気に故郷を感じ、落ち着くと異口同音におっしゃいます。
 皆、開拓者であるという誇りの一方、ふるさとに帰ったような安らぎを求め、そうした心情を、佐々木総監をはじめ先輩開教使の方々が大事にされて来られた証が先の言葉に表れていると思います。
 また、土地の寄進者である故村上正朋氏は、自分が開拓した土地を、多くの人々が末永く、心の拠り所としてほしいと願われました。今後も村上氏の願い、総監、諸先輩の姿勢にならい、イビウーナ日伯寺を訪れる誰もが、自身の原点に返り、やすらぎを覚えるよう精進していきたく思っております。
 佐々木開教総監は、4月19日より10日間、イビウーナ日伯寺に伴う諸問題、特に建物工事、本堂建設について等の件で訪日し、浄土宗東京事務所、浄土宗宗務庁、総本山知恩院、南米開教を考える会、大乗淑徳学園本部、淑徳大学、等を訪問し、代表者の方々と面談し、現状の報告、本年の取組み等に相談を行いました。

朋楽園(出典: 櫻井聡祐)

20.イビウーナ日伯寺の造営の実現

記念庭園「朋楽園」 

 開山堂横の庭園「朋楽園」は、2018年の日本移民110周年及び当寺開基20周年を記念して造成を開始。村上農場の入耕者であり、当寺前総代である故林亮一氏に自宅の庭を作庭してもらったのをきっかけに、彼から造園を習ったという。
 当寺総代の西川忠雄氏(バルゼングランデ在住)が音頭をとり、当寺総代会をはじめ多数のボランティアによる、文字通りの手作りで造成された。庭石や植木は、西川氏や西岡健三氏をはじめ、多くの方から寄贈いただき、造成費用等は総代、信徒をはじめ、有縁の方々からの寄付金の協力で賄った。特に、主な石材をコチア産業組合最大の功労者であり、葉山村出身でもある故下元健吉の甥孫の下元ルイス氏が寄贈。
 中央の大ソテツはイビウーナ最初の日系移住者である故前田重森氏が庭に植えた60年ものを、甥で後継者の内村久夫氏より寄贈。両氏とも、イビウーナ地域の日系社会を興した「開拓者」である先代たちが故郷を思い愛でた庭石やソテツを、正朋の願った「開拓者の心のふるさと」のシンボルとして、訪れる次世代の人たちに親しんでもらえるよう願っての寄贈であり、その願いは全ての寄贈者たちにも通じる思いである。
 2020年4月に開園を予定していたが、コロナ禍のために延期、その2年後、正朋逝去後30年、伸子の7回忌にあたる2022年の9月25日に開園式を厳修。
 当寺信徒、造成ボランティア、寄付協力者約150人が参列、総代、信徒の御婦人、協力者たちによる手づくりの料理でお祝いした。
以下、朋楽園に掲げられた記念プレートの文章である。


朋楽園の説明プレート(出典: 櫻井聡祐)

JARDIM MEMORIAL「朋楽園」”HOU RAKU EN”
Jardim Memorial em homenagem aos 110 anos da imigração japonesa e aos pioneiros que contribuíram para o desenvolvimento do Brasil, como também, à fundação e o 20º aniversário do Templo Budista Jodoshu Nippakuji de Ibiúna.
Hou Raku En significa: “FELICIDADE PELA CONVIVÊNCIA HARMONIOSA”, o ideograma e seu significado「朋 」foi atribuído em homenagem ao nome do Sr. Masatomo Murakami「村上正朋」, que doou este terreno para fundarmos o nosso Templo.
Um dos objetivos principais do nosso Templo e do Sr. Masatomo é desenvolver o sentimento: “A TERRA NATAL COM O CORAÇÃO DO PIONEIRO” neste local sagrado.
Nossa profunda gratidão para todos que contribuíram para a idealização desse jardim e também ao importante apoio da família Shimomoto e da família do Sr. Shigemori Maeda (primeiro imigrante japonês de Ibiúna) nos quais compartilhando nossos ideais doaram as pedras e as plantas “sotetsu”, respectivamente, que se perpetuarão nesse jardim.
Prestamos esta homenagem com o desejo genuíno dos pioneiros para a plena prosperidade das futuras gerações.

Inaugurado em 25 de setembro de 2022

Congregados do Templo Budista Jodoshu Nippakuji de Ibiúna

記念庭園「朋楽園」について(抄訳)

 この庭園は、日本移民110周年にあたり、ブラジルの発展に貢献した開拓者を顕彰し、またイビウーナ日伯寺開基20周年を記念し造成されました。
 朋楽園(ほうらくえん)とは、「ともに生きる幸せの園」という意味であり、「朋」は、当寺の開山のためにこの地を寄進された村上正朋氏の名前にちなんでつけられたものです。
 私達のお寺と村上正朋氏が望むものは、この清らかな場所を「開拓者の心のふるさと」として、後の世代がその気高い精神を受け継いでいくことです。
 この庭園の造成にご尽力いただいたすべての方々に深く感謝いたします。特に、この庭園が末永く親しまれるようにと、石材を寄贈下さった下元家、故前田重森氏(イビウーナ最初の日本人移民)手植えの蘇鉄の苗木を寄贈下さった同氏ご家族の大切なご芳志に御礼申し上げます。
 私たちは、開拓者たちに最大の敬意を表し、その心が後の世代に受け継がれ、末永く繁栄していくことを願います。
2022年9月25日開園
浄土宗イビウーナ日伯寺 檀信徒一同

 また、この時に合わせて、伸子の弟である小岸弘次からの長年の請願でもあった、正朋、伸子夫妻の寄進に感謝し、後世に顕彰する目的で、本堂左脇壇に遺影と位牌を安置した。


正朋、伸子遺影出典: 櫻井聡祐)

本堂左脇壇 遺影 顕彰プレートの文

HOMENAGEM
HOMENAGEAMOS AOS DESBRAVADORES DESTE LOCAL, QUE CONTRIBUÍRAM COM A DOAÇÃO DESTE TERRENO DE 14 HECTARES E O CASARÃO DE 800 M² EM 1997, PARA A FUNDAÇÃO DESTE TEMPLO.
NOSSA PROFUNDA GRATIDÃO AO
SR. MASATOMO MURAKAMI E SRA. NOBUKO MURAKAMI

(抄訳)
 1997年に14ヘクタールの土地と800平方メートルの家屋を寄贈し、本寺院の創設に貢献した、この地の開拓者たちに敬意を表します。村上正朋・伸子夫妻 に深く感謝申し上げます。

 

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