JICA協力隊員リレーエッセイ=ブラジル各地から日系社会を伝える(19)=移民の故郷で暮らして=バストス文協日本語学校 森井薫

 サンパウロ州バストス市のバストス文協日本語学校で日本語教師として活動している森井薫(かおり)です。
 わたしの任地バストス市は人口2万人の小さな町ですが、ブラジル拓殖組合によって開発され、日本人移民移住地として有名で、『移民の故郷』と呼ばれています。2023年3月、わたしが初めてバストスを訪れたとき、バストスのメインロードに建てられたObelisco(日本とブラジルの国旗をイメージしたオブジェ)を見て、この地と日本との関係の深さを感じました。
 配属先であるバストス日系文化体育協会(ACENBA)は1959年に設立され、現在約400世帯の会員を擁し、日本文化やスポーツに関するイベントを企画・運営しています。日本語学校の他、婦人会、明老会、ラジオ体操会、舞踊会、俳句会、太鼓部、野球部、柔道部などの活動が行われています。
 日本語学校での日本語授業、文化イベントの企画・実施、市内の私立学校での日本語・日本文化紹介がわたしの主な活動内容となっています。
 文化イベントで最近新しく始めたのが料理です。毎月第2土曜日を「日本料理の日」として日本料理を作り、販売しています。

日本料理の日でハンバーグ弁当を作った時の様子(執筆者右から3番目)

 バストスは卵の名産地なので、できるだけ卵を使った料理を紹介したいと思い、これまで親子丼、お好み焼き、ハンバーグなどを作ってきました。
 生徒さんや保護者の方たちが手伝いに来てくださり、レシピを紹介しながら楽しくやっています。注文が多いときは大変だと感じることもありますが、「おいしかった」「初めて食べた」「家でも作ってみたよ!」という声を聞き、やってよかったと実感しています。
 バストスでは毎年7月に「Festa do ovo」(卵祭り)が行われています。これは同市最大のイベントで、バストス市とバストス日系文化体育協会との共催で行われています。去年は6日間にわたって開催され、18万人を超える人が会場に足を運びました。配属先の日本語学校でもバストス名物のオムレツを6000個作って販売しました。
 わたしは卵祭りについて、バストスは養鶏業が盛んなので行われるようになったのだろうと思っていましたが、実はこのお祭りは、もともと日本移民の入植祭として始まり、次第に現在の形へと変化してきたそうで、現在でも日系人の多くの方々に「入植祭」と呼ばれています。
 ブラジルでは6月18日は「日系移民の日」として知られていますが、バストスでは「バストス入植記念日」でもあります。当初はこの6月18日にお祭りが行なわれており、卵に特化しているのではなく、いろいろな農産物の品評会が行われていたそうです。
 また、特設ステージでは演芸大会も行われていました。バストスには芸人の移民の方も数名おられ、入植祭での演芸大会はブラジル全土でも有名になり、バストスから市外へ引っ越した人たちが里帰りを兼ねて入植祭を見に来るようになったそうです。
 卵祭りとなった現在でも市外に住むバストス出身者の里帰りの機会となっています。

わたしの誕生日に生徒や保護者の方からお祝いしていただいたときの様子

 また、かつてブラジル全土で人気があった演芸大会は、形を変えつつ現在も続いています。わたしの配属先の日本語学校も毎年参加しています。今年は「よさこいソーラン」を披露することになっており、北海道からの移民が多い同市でよさこいソーランをやる意義なども話しながら目下特訓中です。
 今年第63回を迎える卵祭り、養鶏関係者のエキスポとしての側面、また招待歌手によるショーや移動遊園地など、ブラジル地域社会のお祭りとしての側面が強くなってきている中、「入植祭でもある卵祭り」ということを忘れないで受け継いでいってほしいと思います。
 残り約半年の派遣期間、移民の故郷バストスで自分ができること・したいことを精一杯やっていきたいです。

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