《記者コラム》無形文化遺産の鍋を残せ=土の器への職人達の思い

一つ一つを手作業で仕上げていくベレニシア氏(6日付G1サイトの記事の一部)

 「花の都パリ」で開催されているオリンピックはそれだけで目立つし、メダル獲得といった報道は興奮も巻き起こす。7日には今大会でメダル4個を獲得した柔道の選手団も帰国したが、6日付G1サイト(1)で見かけた土鍋の記事が五輪関係の華やかな報道以上に心をとらえた。
 件の記事では、02年に国が無形文化遺産に指定した土鍋が今年になって州からも認定されたことや、土をこね、成形し、焼成するという昔ながらの手法を守り続けている職人達が伝統を守るための支援を求めていることなどを報じている。
 この土鍋はエスピリトサント州ヴィトリア市ゴイアベイラスで作られている、やや肉厚で黒い釉薬をかけた素朴な品で、実演コーナーもある、倉庫のような場所で展示や販売を行っている。
 伝統を受け継ぎ、鍋を作り続けて53年。現在はゴイアベイラスの鍋作り職人協会会長も務めるベレニシア・コレア・ナシメント氏(66)は、鍋作り自体や、エスピリトサント州の料理や伝統、文化を伝える仕事を続ける難しさを日々感じているという。
 「曾祖母、祖母、母、伯母達も皆、鍋を作っていたから、私も10歳で土をこね始めた」「私達は州の文化であり、無形文化遺産で、州の名前を担っている」という同氏は、「市や州も、400年以上前から続く文化や伝統の価値を認めて欲しい」とこぼす。
 鍋職人達が求めている支援の一つは実演場や即売場も兼ねる施設の改修だ。毎日50人以上が訪れるという施設は「築10年以上で、棚も壊れ、崩れかけており、電力供給の問題もある」ため、「観光客が気持ちよく過ごせ、施設の内外で写真も撮れるような場所」にしたくて市役所や責任者とも話し合ったが、新しい商品棚を作る話も半年間棚上げになっているという。

土鍋が並ぶ施設を訪れた観光客達(6日付G1サイトの記事の一部)

 伝統の鍋や同州の文化なども積極的に伝えるべきとの言葉に対し、市役所側は改修工事も行い、入り口にガラス張りの案内板をかけたし、観光客用の受付や看板も設けたと返答。市サービスセンターが施設の改善や保守のための行動を始め、市のイベントで実演コーナーを設けることも考えているとも語っている。
 一連の話を読むにつけ、伝統や文化は名もない人達の日々の営みを通して守られ、伝えられていることを実感し、その価値をもっと知り、認めるべきだと改めて考えさせられた。
 と同時に、人前で表彰されたり紹介されたりするのは背骨ともいえる働きを担う人達の中でもほんの一握りでしかないことも思う。
 五輪競技の代表選手となれる人はほんの一握りだし、メダリストはさらに少ないが、その裾野には名もない選手やその家族、支援者が山ほどいるのと同じだ。
 ぶつけたりすれば壊れるが、同州の文化や料理を支えてきた土鍋と、土に愛情をこめ、伝統を支えてきた鍋職人達。土鍋で作った料理や文化の中で育てられ、土鍋を世に送り出すのを務めとする職人達の地味な働きが認められ、この伝統が末永く保たれていくよう願わされた。(み)

(1)https://g1.globo.com/es/espirito-santo/noticia/2024/08/06/apos-reconhecimento-de-patrimonio-cultural-imaterial-do-es-paneleiras-pedem-ajuda-para-manter-tradicao.ghtml

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