サントス強制退去事件の舞台となったサンパウロ州サントス市のすぐ隣にあるサンビセンテ日伯協会(井貝ファビオ会長)は5日午後7時から同市立多文化センターで、松林要樹監督のドキュメンタリー映画『オキナワ サントス』(2021年)の上映会を行い、約40人が集まった。上映後にはブラジル滞在中の松林監督、ブラジル沖縄県人会の島袋栄喜元会長、ブラジル沖縄県人移民研究塾「郡星」編集長の宮城あきら氏も出席して、来場者からの熱心な質問や真剣な感想のやり取りを1時間ほど行った。
同作では、第2次大戦中にバルガス独裁政権がサンパウロ州サントス沿岸の日本人移民に対して発した、24時間以内の強制退去命令が引き起こした様々な悲劇的な事件を取り上げている。当時、沖縄県系人が多く暮らしており、事件被害者の約6割が沖縄県系人だった。今回の上映地は、サントスのすぐ隣に位置する。
井貝会長(50歳、3世)に上映会を企画した理由を質問すると「サントス事件のことはこの映画で初めて知った。とても驚いて悲しくなった。日本文化の良い面や美しい逸話ばかりではなく、このような事件もきちんと若い世代に伝える必要があると思う。明日は広島原爆投下の日でもあり、戦争を見つめる意味で企画した」と真剣な表情で説明した。
来場者で、近くで釣り道具店を経営する橋詰巌さん(いわお、86歳、2世)は「この事件のことはサントス住民から聞いたことがあった」、妻桂子さん(81歳、3世)も「ここサンビセンテでも強制立ち退きがあったという話を聞いたことがある」と述べた。
同地在住20年の初瀬川洋子さん(92歳、東京都出身)は「サントス事件は本当に気の毒、被害者はすごく苦労された。アメリカ政府は金銭的な補償もしているのに、ブラジル政府は何もしていないのはひどい。この映画のおかげでようやく知られるようになった。ブラジル人にもっと知ってもらいたい」との意見を語った。
司会の前城タツミさんは、奥原マリオさんと沖縄県人会などの尽力により7月25日に連邦政府による日本移民への謝罪が成し遂げられた件を振り返り、沖縄県人会の高良律正会長は「人権侵害の歴史を繰り返さないためにこの映画を見てもらうことは重要」と述べ、上映が始まった。
上映後に松林監督、島袋元会長、宮城編集長らが前に集まり、来場者からの感想や質問を受け付けた。福田ジュリアナさん(45歳、4世)は、「私の曾祖父はサントス事件の被害者の一人で、祖父ら子供5人を連れてツッパンに逃げ、私はそこで生まれた。祖父に『なぜサントスから出たの?』と聞いたことがあるが、『政府が出ろと命令した』とだけ答えてくれた。その時は詳しいことは教えてくれなかった。この映画で当時の状況がよく分かった。強制立ち退き者の名簿を見て曾祖父の名前を確認したい。このような歴史が繰り返されないように公立学校などでどんどん上映した方が良い」としゃべりながら涙ぐんだ。
市役所職員のジョゼ・ルイスさん(60歳)も「映画で証言した人のうち公開までに5人が亡くなったと聞き、貴重な証言だと痛感した。私はサントス生まれだが、この歴史を知らず、学ばせてもらった。とても感動した」と述べた。
同市市長も務めた伊波興祐(いは・こうゆう)元連邦議員(84歳、2世)は「この映画は、戦争と何の関係もない日本移民がその犠牲になったことを示している。人類の最も愚かな行為が戦争だ。だが、この映画は今、我々に誇りを与えてくれる。このようなことが起きても、全てを犠牲にして社会的な評価を上げてくれた祖先の努力のおかげで、私たちは今、ブラジル社会の中で敬意を持たれているからだ」と称賛した。
松林監督は「ブラジル側で初めて上映会に参加でき、自分たちの物語として真剣に鑑賞してくれていることがよく分かって良かった」と喜び、翌6日の便で帰国した。