《特別寄稿》パリ五輪ラ米カリブ諸国メダル状況=人口比でみる獲得の意外な効率=ラテンアメリカ協会顧問 桜井悌司

 猛暑の中、パリ・オリンピックは7月26日から8月12日まで開催され、日本中、感動の渦に巻き込んだ感があった。日本は米国、中国に次ぐ堂々3位の成績で、金20、銀12、銅13の合計45個のメダルを獲得した。これは、海外でのオリンピックでは過去最多である。本稿では、当協会が対象とするラテンアメリカ・カリブ諸国の金銀銅のメダルの獲得数などを紹介する。

(表1)パリ・オリンピックにおけるラテンアメリカ・カリブ海諸国による金・銀・銅メダル獲得リスト

「ラテンアメリカ・カリブ諸国選手の活躍ぶり」

 パリ・オリンピックにおいてラテンアメリカ・カリブ海諸国の選手による金・銀・銅メダルの獲得状況をリストアップしたのが、表1である。団体競技のメダル数は1とカウントしている。また国別に紹介するとともに前回の東京、前々回のリオ・オリンピックの記録も(東京/リオ)内で記しておいたので、過去3回のオリンピックでの成績を比較することができよう。
 この表1によると、ラテンアメリカ・カリブ諸国のパリ・オリンピックにおけるメダル獲得数は、金13、銀23、銅32の合計68個であった。東京オリンピック、リオ・オリンピックと比較し、金メダルはかなり減少したが、銀と銅は増加しているので合計メダル数は過去2回を上回っている。
 国別のランキングをみると、ブラジル、キューバ、ジャマイカ、エクアドル、アルゼンチン、セント・ルシア、チリ、ドミニカ共和国、グアテマラ、ドミニカ国がベスト10であり、いずれも金メダルを獲得している国である。ブラジル、キューバ、ジャマイカはオリンピックで活躍する常連国であるが、カリブ海の小国のセント・ルシアとドミニカ国が入っていることに注目したい。
 エクアドルは東京オリンピック以降、大いに健闘しているが、今回もさらに活躍した。チリは、過去2回メダルは無かったが、今回は金1、銀1の活躍を見せた。ベネズエラは、従来メダルを獲得している国であるが、政治・経済状況を反映してか、今回はメダルなしで終わった。

「主要国の活躍についての簡単なコメント」

【ブラジル】
 ブラジルはパリ・オリンピックで、金3個、銀7個、銅10個の合計20個のメダルを獲得した。リオ・オリンピック以前のブラジル人のオリンピックへの関心は、比較的低いものであったが、リオ以降関心度が高まってきた。リオでは金7、銀6、銅6の合計19のメダル。東京では金7、銀6、銅8の合計21個のメダルであったので、メダル数ではほぼ同様の数字である。
 金メダル数は減少したが、女子体操のレべッカ・アンドラーデの体操ゆか金メダル、跳馬銀メダル、個人総合2位の成績は、日本でも話題になった。また柔道女子78kg超で、ベアトリス・ソウザが金、柔道男子66kg級でウイリアン・リマが銀メダルを獲得した。団体では女子ビーチバレーの金、サッカー女子の銀、女子バレーの銅、女子体操団体の銅、柔道混合団体の銅にも注目すべきであろう。
【キューバ】
 キューバは金2、銀1、銅5の合計8で終わった。東京オリンピックでは、金7、銀3、銅5、合計15であったので、やや不本意な結果と言えよう。それでも日本のマスコミでも大いに注目されたのは、レスリング男子グレコ・ローマンスタイル130キロ級の金メダリストのミハイン・ロペス・ヌニェス(42歳)で、夏季五輪全競技の個人種目を通じ、史上初、前人未踏の5連覇を達成したことである。
 日本でもレスリングの伊調馨の大会4連覇、吉田沙保里、柔道の野村忠宏の3連覇があるが、ロペス・ヌニェスの偉業は高く評価されるべきであろう。加えて、ボクシング男子63kg級でエリスランディ・アルバレス・ボルヘスが金メダルを獲得した。その他レスリングでは、銀1、銅3のメダルを取った。
【ジャマイカ】
 陸上王国のジャマイカもパリ・オリンピックでは、十分な成績を残すことができなかった。金1、銀3、銅2の結果であった。前回の東京、前々回のリオでは、それぞれ金メダルを4個と5個を取っているので、今回の1個は残念な結果であろう。過去のウサイン・ボルトやエレイン・トンプソン・ヘラのような絶対王者がいなくなったことと関係があるものと思われる。今回の金メダリストは男子円盤投げのロージェ・ストーナである。銀は、男子100m、男子走り幅跳び、女子三段跳びである。
【エクアドル】
 エクアドルは、金1、銀2、銅2の合計5個のメダルを獲得した。男子20km競歩でダニエル・ピンタードが金、男女混合競歩で銀、女子フリースタイル53kg級のルシア・ジャミレス・イエペス・グスマンは決勝戦で136連勝中の藤波朱理と戦ったのは記憶に新しい。ウエイト・リフテイングでも二つの銅メダルを獲得した。
【アルゼンチン】
 アルゼンチンは金1、銀1、銅1の合計3個のメダルを獲得した。自転車BMXフリースタイル男子パークでホセ・トーレス・ヒルが金メダル、セーリングの混合マルチハルで銀、団体では、ホッケー女子が銅メダルを取っている。アルゼンチンの面白さは、意外な種目でメダルを獲得していることである。
【セント・ルシアとドミニカ国】
 パリ・オリンピックの大きなサプライズはカリブ海の超小国の活躍であろう。人口7・2万人ドミニカ国と18・3万人のセント・ルシアからゴールド・メダリストが出たのだ。セント・ルシアのジュリアン・アルフレッドが、トラック競技の花形である陸上女子100mの決勝を制した。同時に200mでも銀メダルを取った。これにより、カリブ海に浮かぶ小さな島国がにわかに注目を集めた。セント・ルシアの選手がメダルを獲得したのは、全競技を通じて史上初めてであった。レース後、「この金メダルによってセント・ルシアに新しいスタジアムが造られ、スポーツの発展につなげることができればうれしい」と健気に喜びを語ったそうである。
 一方、ドミニカ国のシーア・ラフォンドは、陸上女子三段跳び競技で金メダルを獲得した。1996年にドミニカ国がオリンピックに初出場してから全大会を通じて、史上初のメダル獲得となった。これら二つの小国の大活躍は、陸上王国ジャマイカのお株を奪うものであった。
【チリ】
 チリは東京、リオの2大会でメダル無しで終わったが、パリでは、金1、銀1と二つのメダルを獲得した。金メダルは、射撃女子スキート個人でフランシスカ・グロベット・チャディーが、銀メダルは、男子グレコ・ローマンスタイル130kg級のヤスマニ・アコスタ・フェルナンデスである。
【ドミニカ共和国】
 ドミニカ共和国は東京オリンピックから頭角を表わし、銀3、銅2の5個を獲得したが、今回は念願の金メダル1と銅メダル2個の計3個のメダルを勝ち取った。金メダルは、女子400mのマリレイディ・パウリーノである。二つの銅メダルは、男子ボクシングによるものである。

(表2)人口と金メダルの関係

人口と金メダルの関係

 パリ・オリンピックの会期中、毎日熱心にテレビ観戦していたが、メダル、なかんずく金メダルを取ることがいかに難しいことであるかを再認識した。とりわけ驚いたのは、カリブ海の超小国のドミニカ国とセント・ルシアが金メダルを取ったことである。この事実に触発され、金メダルと人口との関係に興味を持ち、遊び心で調べてみた。以下、いくつかのコメントである。
 女子3段跳びで金メダルをとったドミニカ国の人口は、7・2万人、陸上女子100mの金メダルは、セント・ルシアで人口は18・3万人である。すなわち、それぞれ7・2万人、18・3万人当たり金メダル1個を獲得したということになる。断トツの効率性である。
 この表2のリストにある国の中で見ると、ブラジルは、7177万人、同様に中国は3500万人、米国は841・3万人、ドイツは706・8万人、日本は624・7万人の割合で1個の金メダルを獲得したことになる。
 反対に金メダル1個当たりの人口の少ない国は、前述のドミニカ国7・2万人、セント・ルシア18・3万人、ニュージーランド47・3万人、オランダ118・4万人、オーストラリア145・9万人、カナダ334・2万人、韓国396・6万人となる。先進国の中ではニュージーランドは素晴らしいパーフォーマンスである。韓国は日本と比べてもかなり効率的に金メダルを取っていると言えよう。ジャマイカも金メダル1個に終わったが、282・7万人と効率が良い。
 インドは、人口14億1717万人の超大国であるが、パリ・オリンピックでは、金0、銀1、銅5の合計六つのメダルを獲得した。14億の人口にしても金メダルを取れなかった。

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