平野運平の業績振り返る=故人の故郷掛川市の偉人展で=中沢英利子さんが事跡を講演

講演する中沢英利子さん(提供写真)

 「ブラジル移民の父」平野運平の生誕地である静岡県掛川市で18日、同氏の事跡を紹介する講演会があり、70人余りの参加者が熱心に耳を傾けた。これは同地で開催された「遠州の偉人展」(同展実行委員会主催、掛川市などが後援)初日に行われた交流会の一環として開かれたもの。偉人展では12人の偉人がとりあげられているが、紹介講演は平野運平のみで他を代表する形となった。

 「遠州の偉人展」の主旨には「私たちの郷土には、古くから人々の幸せのために身を尽くしてきた人の歴史があります。その時代を背景に、向学心に燃え、課題の本質を見極め、自らの信念に基づいて業績を成し遂げた偉人たちです。優れた先人に学ぶことによって、私たちも自分の人生を豊かにし、社会に貢献していくことができるのではないでしょうか」と書かれている。その一人として平野運平が選ばれた。
 講師はブラジル日系社会を研究する横浜市立大学大学院後期博士課程の中沢英利子さんで、ここ数年来平野植民地と掛川市を複数回往来し、両地域の交流促進を支援している。中沢さんは「掛川での平野の知名度は高くない。何とか一般市民の方に平野のことを知って頂ければ」と話す。
 ブラジル移住の概要から始まり、平野運平の略歴、人望を集めた平野を慕って多くの植民者が日本人最初期の植民地建設の夢を共有し、実際に入植したが、マラリアにやられて次々に尊い命が犠牲となる大惨事となった歴史を紹介。「平野植民地の場合は悲惨の〝規模〟と深さにおいてこれに比ぶべき例を見ない」という『ブラジル日本移民八十年史』の言葉を紹介した。

会場の平野運平展示の様子(提供写真)

 植民地建設が嘱望された理由として「奴隷同然だった日本人農業労働者が幸せになるには、自作農になるしかない」という現実を直視し、「社会的階層の上昇」「宗教(仏教)的共同体形成」を目的に建設に踏み切ったなどと説明した。
 参加者の中からは「初めて知った」「郷土からこのような人が出て誇らしい」などの声があったという。中沢さんは「講演は思いがけず盛況で、冒頭に市長が挨拶に来てくれたり、市議会議員や元副市長が参加してくれたり、平野移住地から託された思いにそって一定の成果を上げられたと思います」と本紙にコメントした。

「遠州の偉人展」ポスター

 講演の会場は、二宮尊徳の思想を広めている大日本報徳社の「仰徳記念館」。掛川中学で報徳思想を学んだ平野運平の植民地造りも、報徳思想につながるのではとの仮説も講演の中で示された。
 平野植民地は2025年に入植110年の節目を迎える。今回のイベントを機に、両地域の交流がますます活発となることが期待される。(中澤夏樹さん通信に本紙加筆)

最新記事