サルトリオは訊ねた。
「皇国殖民会社とサンパウロ州政府の問で、三年に三千人入れる契約があります。第一回は七九一人だから、あと二千二百人はこの二年に来る予定です」
「そうだな」
サルトリオはすでに知っているらしく、うなずいたが、
「ヒラノ、お前をちゃんとした地位につけてやろう。そして、日本人をどんどん入れてくれ」
と、言った。
「はい」
何気なく運平は頷いた。
「では、今日からお前はグァタパラ農場の副支配人だ」
「ええ。ええ」
冗談だと思って彼は笑った。
「不服かね?」
ジロッとサルトリオは運平を見た。
「は?」
「本当なんだよ。お前は副支配人だ」
「何と言いましたか?」
彼は我が耳を疑った。大分ポルトガル語に馴れたとはいえ、聞きちがえということもある。エンジンの音にまぎれてちがう単語だったかもしれない。
「副・支配人・だ」
サルトリオは力強く、一語一語ゆっくり一言った。
真紅の車の行手には、二百十一万本のコーヒー園が遥かに連なっていた。それを無造作にグルッと手で指してサルトリオは言った。
「これからは、お前はこのグァタバラ農場の全ての人間に命令することができる。ただし、私以外はな」
「自分が副支配人……」
つぶやいたまま、運平は呆然としていた。
あまりのことに実感が湧かなかった。
……三家族を追放してから、たしかに彼は先に立って一生懸命働いた。通訳としての立場を踏み越えて犠牲を強いただけに、何としてもここを持ちこたえようとだけ考えてやって来た。逃亡者はボツボツあるが、大部分は残ってくれた。
作業はすでに採集期を過ぎていた。人々は一人二千五百本のコーヒー樹を受けもち、除草が主の手入れをしていた。手がすけば、牧場の柵直しや大工仕事などの賃仕事に出た。採集期の季節労働者は去り、人も少
なくなっていた。