聖南西教育研究会=区域外研修を5年ぶり再開=スザノ、アルモニア学園を訪問

 聖南西教育研究会(渡辺久洋会長)は8月29~30日、ブラジル日本語センター支援のもと、パンデミック後初、5年ぶりとなる区域外研修を行い、スザノ日伯学園、アルモニア学園を訪問した。
 区域外研修は異なる地域の多様な日本語教育の実情や日本語学校の様子を知り、地域を超えた日本語教師の情報交換、交流、日本語学校との繋がりを築くために行われている。これまで同会では、ノロエステ地区、汎パウリスタ地区、スザノ地区、モジ地区、セントラル地区、聖北西地区、サントス日本語学校、サンパウロ日本人学校、といったサンパウロ州内の各地区の学校に留まらず、マリンガ地区、ブラジリア地区(ブラジリア日本語モデル校/タグアチンガ)、南マット・グロッソ地区(ドウラードス/ひまわり学園)など州を超えて日本語学校を訪問するなど、活発に他地区を訪問している。
 同研究会では毎年1月にも、日本語教育に関する情報の収集と教育技術の向上を図ると共に地域の教師の親睦を深める目的で2日間の教師合同研修会を行っている。
 29日、聖南西地区の日本語学校教師18人と文協役員などの学校関係者4人が参加し、ピラール・ド・スールとピエダーデの二手に出発地を分けて貸し切りのバンで移動。最も遠方のレジストロ日本語学校教師達は午前5時に現地を立ち、7時半に約160キロ離れたピエダーデに到着、そこからさらに4時間かけて、初日の見学校であるスザノ日伯学園に向かった。

 午前11時半にスザノ日伯学園に到着すると、汎スザノ文化体育農事協会の山上雄司文化部部長、同学園平岡カルロス会長、安楽恵子校長、また同学園日本語教師から歓迎を受けた。
 午後から施設見学、授業見学を行い、その後、懇談会が行われた。山上部長から「今年の始めの新聞に、ピラール・ド・スール日本語学校ではパンデミックの後、子供の生徒が増えていると載っていたが、どうして増えているのか。どんなことが評価され、日本語学校でどんなことをしているのか」と問われ、渡辺会長は「当校では、子供達が将来、いつ、どこで、どんな状況においても、周りの人達と協調しつつ強くたくましく生きて行けるようになること、を教育理念の原点に掲げており、日々のあらゆる活動はそれに近づけるためにはどうすればいいかを考えて行っている。要は『日本語・日本文化の指導を通した人間教育』に非常に重きを置いているが、それは当校に限らず聖南西地区のどの日本語学校、どの教師においてもあまり変わりはなく、保護者も含め、多くの関係者が同じ方向に向かって協力し合えていることが一因ではないか」との考えを示した。
 ピラール・ド・スール日本語学校で非日系人として初の母の会会長となり、また非日系人として初の文協婦人会会員ともなった同校母の会会長の斉藤ルシアナさんは「ピラール校には1週間の体験入学制度があり、その後正式に入学を希望する場合、生徒自身で学校の教室やトイレなどを清掃することや週末の学校行事に親は参加し協力することなどこれまで継承して行われてきている様々な決まりを親に説明します。それらを理解、承知し、それでも入学させたいと思って頂ける方に入学して頂いています」と、時代や社会が変わっても学校の教育方針や活動方針は変えずにしっかりと継承・継続してきていることを示すなどし、皆は普段聞くことのない保護者の立場としての考え、意見にじっくりと耳を傾けた。
 同校の見学を終え、福澤一興さん(レジストロ日本語学校教師、1世、80代)は「役員が教育目的を持っていてそれを実行に移すべく努力しているのが非常に興味深かった。これは日伯学園の教師にとっても大きな励みと同時に職務の大事さを理解する一助となると思う」、吉田千鶴子さん(同校、2世、70代)は「立派な学校だと思った。日本人の教育に対する意識がしっかりと受け継がれているように見受けられた。その中で日本語教育を保つことの難しさも感じられた」と教育理念や教育目的の継承向けた意識の高さを感心していた。
 午後5時過ぎ、同地を離れた一行はサンパウロへ向かい、昨年迎えた同会創立40周年のお祝いを兼ねた食事会を開催した。同地域の日本語学校に9月に派遣される予定で、サンパウロで派遣前訓練を行っているJICA隊員3人も参加し、一足早い顔合わせと交流がはかられた。
 翌30日はアルモニア学園を訪れ、学校見学、懇談会が行われた。始めに同学園の校長ベルトゥシ・エジウソン氏、外国語コーディネーターのジュリアナ・ザヤス氏、渉外コーディネーターのフェルナンダ・オリベイラ氏、アルモニア教育文化協会の宮川誠司理事から同学園に関する説明があり、学校を見学後、日本語の授業を担当する教師5人による日本語の授業に関する説明が行われた。
 谷桃香さん(ピラール・ド・スール日本語学校、日本人、20代)は「保護者に対し、学校の教育方針や生じた疑問への回答をしっかり伝えているのも、家庭と連携して生徒を育てることにおいて欠かせないと感じた」と学校と親の協働の重要性を実感し、他の教師は「成績が優秀な生徒を育てるためではなく、今後も変化していく社会に向け、生徒の内面の成長を最優先に考えた教育を行い、結果として生徒全体が優秀な成績を収めているという結果を出していて、ただただすごい。学園の教育理念・活動方針、また活動内容やシステム、施設なども本当に素晴らしいのだが、さらにそれらを現場での活動や結果にしっかりと反映をさせられている。これほど充実した教育を行っているところは初めて見た」と驚いていた。

 アルモニア学園見学後、一行はカタベント科学技術博物館を訪れた。「凄く楽しくて勉強になった。先生だけではなく学生をつれて勉強をかねた見学ができそうでよかった」と好評を博した。
 研修を終え、初めての参加となる教師からは「どちらの学校も最初の日系人たちが危機感を感じて、かなり努力し、学校を大きくしたというのが印象的だった」(コロニア・ピニャールモデル校教師、橋本理沙さん、JICA隊員、20代)、今年から日本語教師を始めた松實アマビリさん(レジストロ校、3世、30代)は「初めての区域外研修とても楽しかったです。先生方と過ごした時間は一生忘れません。嬉しかったです」、同じく島崎さゆりさん(ピラール・ド・スール日本語学校、3世、24才)は「2校も見学できて、とても楽しかった。色んな先生とお話ができてよかった。来年の区域外研修も楽しみにしています」と充実した区域外研修となったことを伺わせた。
 渡辺会長は「訪問した二校はブラジル公教育を行っている学校であり、環境的にも規模的にも根本的に異なっているが、教育理念の原点として『人間教育』を考えていることは一致しており、またその目指す人間像においてもほとんど変わらないということを知った。今後の活動において大きな励みと確信と自信にもなった。当然ながら同じようなことはできないのだが、聖南西地区や日系社会が古くから繋いできた日本語学校・日本語教育はその環境にいる私達だからこそできるものなので、今回訪問した両校をいい刺激として、私達も負けないようにこれから自分たちの現場を盛り上げ発展させていく」と決意を新たにしていた。

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