米国大統領候補のカマラ・ハリス氏の父ドナルド・ジャスパー・ハリス氏(86歳)は、エコノミストとして国際的に知られ、ブラジルで教鞭を取った経歴を持つ。ジャマイカ出身で米国に帰化、スタンフォード大学教授としてキャリアを積み、1990年フルブライト・プログラム(米国政府による国際学術交流事業)によりブラジルに渡った。ドナルド氏の知られざるブラジルでの功績を26日付BBCブラジルなど(1)(2)が報じた。
ブラジル滞在中、ドナルド氏は大学でのセミナーや講演を通じて、学生や教授との交流を深めた。特にブラジリア大学で学生に与えた影響が大きかったという。
当時ドナルド氏のコースを受講したジョルジ・トンプソン・アラウージョさんは、ドナルド氏は内向的だが非常に親しみやすく、学生に温かい印象を与えたと振り返る。ブラジル文化に親しみ、シュラスコ(バーベキュー)やブラジル音楽界の巨星シコ・ブアルキのファンであることも公言している。
ドナルド氏の授業では、彼の著作である『資本蓄積と所得分配 (Capital Accumulation and Income Distribution)』からの資料を用い、経済理論の基本原則を学生に伝えた。アラウージョさんによると、同氏の授業は「非常に熱心で教え方が明確だったが、かなり難解だった」という。授業は英語で行われたため、当時の学生たちは言語の壁にも直面したが、ドナルド氏に対する尊敬は深かった。
娘カマラ氏は「自分は母親に育てられた」と述べており、父親に言及することはめったにない。だが幼い頃の父親との記憶が、彼女の確固たるアイデンティティを形成し、政治的キャリアに影響を与えたとも言われている。
ドナルド氏は、経済学において主流派理論に批判的であり、ブラジルでの経験を通じて異なる経済理論や視点に触れることができたと述べている。彼は1974年に発表した応用経済研究所(Ipea)の記事『新古典派の寓話の死語(Um Post Mortem à Parábola Neoclássica)』で、ブラジル経済に対する独自の見解を示している。
この研究は、新古典派経済学の限界を指摘し、ブラジルにおける実際の経済問題へのアプローチを提案したものだ。彼の洞察は、ブラジルの経済問題に対する理解を深め、国際的な経済学の議論にも影響を与えたとされる。
「彼は主流の経済理論を批判し、経済学において非常に異端だった」とアラウージョさんは指摘する。ブラジリア大学では異なる潮流の経済学者が共存し、多様な意見が交わされていたという。
ドナルド氏の研究はブラジル経済学界において重要な位置を占め、多くの学生や研究者に影響を与えると同時に、ブラジルでの活動を通じて彼自身が学問的視野を広げ国際的な視点を持つ経済学者としてのアイデンティティを形成することができたという。