ブラジル日本商工会議所(小寺勇輝会頭)は9月20日、サンパウロ市のインターコンチネンタルホテルで定例懇親昼食会を開催した。今回は農業部門のスペシャリストであるアレシャンドレ・メンドンサ・デ・バロッス氏を迎え、講演を行った。過去30年で世界の農畜産市場は大きく変化し、ブラジルが世界の上位に台頭してきた理由や今後の更なる成長の余地について展望が語られた。142人が参加し、ブラジルのアグリビジネスへの関心の高さがうかがわれた。
バロッス氏はサンパウロ大学農業工学科卒業後、応用経済学の博士号を取得。同大学の経済学部とゼツリオ・ヴァルガス財団(FGV)大学の農業経済学の教授を務めた他、Fosfértil社、CASP(タンパク質構造予測精密評価)、Vale Fertilizantes(鉱山会社)、Terra Vivaグループ、Coplana(農産業協同組合)の取締役会メンバーも歴任。FIESP(サンパウロ工業連盟)アグリビジネス上級審議会、元EMBRAPA(ブラジル農業研究公社)渉外委員会の一員である。
ブラジルは天然資源大国と言われるが、バロッス氏は、「太陽を収穫する科学と芸術の農業」が最大の産業と説明。国全体のGDPの25%、雇用数の30%が農業部門で占められている。
FAO(世界食糧機関)のデータによると、ブラジルの農業貿易収支は1990年には約70億米ドルと世界の小さな点の一つだったのが、2022年には約1,310億米ドルと世界トップの貿易黒字になった。先進国だけでなく中近東やアジア諸国でも経済成長は進んでおり、国が豊かさを維持するためには食料安全保障が必須事項で、ブラジルは豊かな国への食料供給国としても重要な位置づけにある。
ブラジル農業の特徴は熱帯農業が実施されていることである。高い国際競争力を持てたのは、農作物の成長に必要な水、日照、平原に恵まれていることで、過去30年に生産量が拡大したのは作付面積が増加したからではなく、生産性向上の技術革新が進められたことや2毛作、3毛作が増えたことによる。
今後もブラジルの農業が成長できるという裏付けは、まだ全国で5%しか行われていない乾燥地帯での灌漑農法の拡大、今年世界トップの輸出量となったトウモロコシは大豆の裏作としてまだ6割の土地でしか生産されておらず、更なる収穫増が見込まれることなどが挙げられる。また、ブラジル北部の大豆輸出量は輸送路の改善により全国の三分の一を占めるまでになったように、ブラジル南部で飽和状態になっている港湾など、ロジスティックの改良でも輸出増加が見込まれる。
1975年にブラジルは世界で最初のサトウキビ由来のバイオ燃料を生産し、以後、トウモロコシや大豆からもバイオ燃料は生産され、その量も増加している。脱炭素に向けて自動車だけでなく航空機や船舶などでも持続可能な燃料としてニーズがあり、「バイオ燃料の生産が増えるほど、その副産物からつくられる動物飼料コストも下がり、食肉コストも下落して輸出も増える」と、バロッス氏の描く未来は明るい。
「ブラジルは確実に世界トップの農畜産大国になり、今後も更なる経済成長が見込まれる。熱帯農業の拡大は常に新たな課題にも直面するので、それを克服するための努力と技術改良、最適なパートナーが必要である」と、日本にもパートナーシップとして期待を寄せた。