特別寄稿=日系社会と日本文化の広がり=南米に根付くKARAOKEと祭り=日本財団 和田真

KARAOKE CONTESTで優勝したPaula Hissami Yamada Hiramaさん(ブラジル)が歌ったのは「愛子の朝」

日系社会と日本財団

 1962年に設立された日本財団(旧称:日本船舶振興会)は、国内外で多くの社会貢献活動を支援しています。海外での支援活動を本格的に開始したのは1970年代で、中南米の日系社会支援がきっかけとされるほど、日系人と日本財団には深い縁があります。日本財団の日系人への支援としては1990年代前半まで、日系人のための福祉や文化施設などを中心に行われていましたが、その後は人材育成やネットワーキングの支援へとシフトしています。たとえば「日本財団・日系スカラーシップ」では、毎年8名前後の日系人に対して日本に留学するための奨学金を提供し、これまでに166人(在学生含む)が母国、日本、そして世界中で活躍しています。

KARAOKEの力

 日本財団の日系社会支援担当として、私はこれまでも何度もペルーやブラジルを訪れ、日系人や日系コミュニティ、そして支援団体の方々とお会いしてきました。ブラジルではリオグランデドスール州に住む1世の方からお話を伺う機会もありました。今回、パラグアイのアスンシオンで開催された第20回パンアメリカン日系人大会(COPANI)に日本から参加しましたが、日系社会支援を行っている民間組織として、そして何よりも一人の日本人として、多くの感動や気づきがありました。その中でも、KARAOKEに象徴される日系人による日本文化の波及力には改めて驚きを感じています。
 SUSHI、MANGAやKAIZENなど、日本発祥の言葉が世界中で使われています。日本の文化や制度が評価されているようで嬉しく感じます。そして、南米で日本発祥のKARAOKEの原動力となっているのは間違いなく日系人でしょう。COPANIのイベントの一環として、KARAOKEコンテストが行われ、5カ国から34人の日系人が歌声を競いました。日系人ということもあり、参加者は日本語で日本の曲を歌いましたが、どの方も「KARAOKEが好き」というレベルを超えており、日本のテレビで見る「のど自慢大会」のような雰囲気でした。約300名の観客は身振り手振り、時には一緒に歌を口ずさみながらKARAOKEを楽しんでいました。一つの偏見かもしれませんが、KARAOKEと南米のノリは非常に相性が良いのだと思います。南米ではKARAOKE講師で生計を立てている人やプロのKARAOKE歌手もいるそうです。
 また、ブラジルではサンパウロの「日本祭り」を筆頭に、ブラジル全土で80か所以上で「日本祭り」が行われていると聞きました。ブラジルで国名がついた祭りが全国各地で行われているのは、「日本祭り」だけではないでしょうか。「日本祭り」の参加者の多くは非日系であることを聞くと少し寂しい気もしますが、それほど「日本祭り」が現地に定着しているのでしょう。日本でもタイフェスティバルやフランスフェスティバルといった国の名前がついたイベントはありますが、全国津々浦々で開催されるほど国名を冠したイベントは一般的ではありません。仮に特定の国名がついたイベントが日本全国で開催されるとしたら、少し違和感を覚えてしまいます。

日系人の影響力

 日本政府は経済政策の一環として2030年までに訪日外国人旅行者数を6,000万人まで増加させる目標を掲げています。確かに観光客が多ければ経済効果も高まるでしょう。しかし、金額に換算できない価値や魅力を伝えること、その国や地域で独自に発展する日本文化をそっと後押しすることも重要だと考えています。
 私はCOPANI、そして一つのイベントとして開催されたKARAOKE、さらに南米各地で行われている「日本祭り」に象徴される、日系人の影響力に驚きました。KARAOKEや日本祭り以外にも、日系人が原動力となって広まっている「日本のコト」は、柔術(JUJUTSU)など枚挙に暇がありません。日本文化や日本理解促進の担い手としての日系人の活躍に、大きな可能性を感じています。世界に500万人いるとされる日系人が、ルーツを感じながら日本語を学びつつ、KARAOKEや日本祭りを楽しみ、日系・非日系を問わずより多くの人々が結果的に日本の文化に触れ、日本に親しみを感じるという連鎖が大きくなることを期待しています。

プロフィール:
 2005年に(公財)日本財団に入会。海洋事業部と広報部を経て、2017年より開発協力、海外広報、日系社会支援の業務を所掌。日本財団の日系社会支援については同財団サイト(https://www.nippon-foundation.or.jp/what/projects/nikkei-communities)から確認できる。

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