一帯の大地主のビッセンテ・ギマランエスとバウルーで会えた。彼は現地の支配人のオットーと話をするように言った。
今朝バウルーを出て五時間はど汽車に揺られてペンナに着いたが、ずっと原生林が続いていた。しかも、ここは地図でみるとノロエステ線のほんの入口だった。まったく果てしのない大地だった。
若者と共に十分ほど馬を進めると、森の径が広げて農園があった。豆やトウモロコシが植っていた。さほどの出来とは思えない。手入れが悪いのだ。
作男の家らしい板小屋が五、六軒あり、奥に練瓦建てのどっしりした家があった。
出て来たのは赤ら顔の大男である。一目でドイツ系と分る顔立ちをしていた。片足を引きずりながら、ゆっくり歩いて来た。運平の挨拶にもちょっと唇を曲げただけで、ギマランエスとのいきさつもフンフンと鼻であしらっていたが、
「土地を買う!お前達のように小さな日本人にこの森の開拓ができるか」
と嘲笑った。
よほど横暴な男らしく案内の若者も彼の前では小さくなっている。
運平はムッとして、
「日本はロシヤに勝った国だ」と言った。オットーは大笑いして、
「あれはロシャが弱いからだ」と首を振った。
「そうかもしれない」
運平は無理に逆らわなかった。
「私たちは戦争ではなく開拓をするつもりだ」
「戦争も開拓も似たようなものだ。自然と闘わなければ生きていけないだろう」
お前たちの体格では木一本倒せぬ運平はモジアナ地方では日本人労働者の優秀性が認められていると話した。
「フーン」
詰まらなさそうにオットーは聞いていたが、
「お前、射撃は上手いのか?」と訊ねた。
あまりやらないと答えると、
「そんな連中が森に住めるか、ここでは銃だけが頼りだ帰った方がいいな」
と面倒臭そうに手を振った。
「銃よりも鍬が大切だ」と反発すると、
「バカを言え。銃も扱えんでここでは生きて行けん。おれの右足には弾が入ってるぞ。これを持ってみろ」
言いながら吸いかけの葉巻をヒョイと運平に渡した。
何気なく持つと、
「それを持って、あの木の下に立ってみろ」とアゴをしゃくりながら腰のピストルを抜いた。気の荒い処だ。
運平は驚いた。新開地だけのことはある。グァタパラでは、こんなムチャな奴に逢ったことはなかった。
彼は葉巻を持ったままオットーを見上げた。首一つ分だけ高い。