運平は大声をだした。皮ゲートルに古背広姿だった。
数日分の米と干肉と着換えを負い、腹に山刀とピストルを帯びている。「オウ!」と応えた青年たちの恰好も似たようなものだった。数人には銃を持たせてあった。ペンナ駅から北へ向って十三キロメートルの森の中にドラード河がひっそりと蛇行している。名もない小川とドラード河の合流点を起点に、小川に添って東に九キロドラード河にそって北に四キロ五百メートルの四角い森林が〝約束の土地″だった。
冬なので、頭上の太陽はやや北に傾いている。人々は太陽に向って歩き始めた。集落というほどでもない駅前の部落を後にすると、径はたちまち細くなった。
一列になってダラダラの坂を登って丘の中腹まで来ると、その径も雑草や下枝におおわれ始めた。
森が深くなった。二人が交代で前に出て山刀を振う。バサバサと羽音を騒がせて、緑色のオームの群が飛びたった。
頭部の一点の赤が樹間にきらめいて、すぐ近くの樹へ移ったらしいがもう姿は見えない。そのままひっそりとした。
運平は四月に青木孫八と松岡弥作を伴って、オットーのつけてくれた男に案内されて現地まで行った。ピッカーダと通称される細径を辿り、途中からその径もなかった。
四ヵ月ぶりに来てみるとあのとき案内人が開けたピッカーダも枝の切り跡でようやくそれと識別できるほどに薄れていた 。森 は人間につけられたその傷を一刻も早く癒やそうとしたらしかった。
あとで荷物を運搬しなければならないので、重いものを担って楽に通れる巾に径を開きながら人々は進んだ。
重い山刀は無理に力を込めずに振りおろすのがコツだ。
バサッバサッと生木は面白いように切れた。
一時間に一キロ以上は進んでいる筈だったが、視界が閉ざされて距離も方向も見当がつかないのだった。緑のじゅうたんの下に這り込んでしまった蟻のようだった。
太陽の位置さえ定かでない。
「家がある!」
先頭にいた重本智吉が呼んだ。
森の中にわずかな木を倒した空間があって、小屋が一軒あった。
人はもう住んでいないようだった。屋根の一部が陥ちてい開拓者が入ったのだろうか……。