国際交流基金は12日、サンパウロ市の文化施設「IMSパウリスタ」で長編ドキュメンタリー映画『蒸発』(アンドレアス・ハルトマン、森あらた共同監督、2024年)の上映会を行い、150席の会場は満席となった。上映会後、アンドレス、森両監督が本紙単独インタビューに応じた。
2022年、警視庁は行方不明者数を年間8万人超と発表した。映画『蒸発』は、「蒸発者」と呼ばれる借金や人間関係など様々な理由で、「夜逃げ」をし、新たな場所で生活をしている者、残された家族、夜逃げ屋に焦点を当てた作品だ。
制作のきっかけは、アンドレアス監督が2014年に京都で映画『A Free Man』を手掛けた際、大阪の西成地域の日雇い労働者や、夜逃げを手助けする業者の存在を知ったところにある。蒸発者についての映画を撮ることを決めると、ベルリン在住で15年以上ヨーロッパを拠点に活動している森監督に話しを持ちかけた。
アート作品の制作を主に行ってきた森監督にとって、日本を舞台にした社会派ドキュメンタリー作品の制作は初めての試みだったが、「外から見た日本」という作品の観点に興味を持ち、共同制作の依頼を受けることにした。
制作は2018年から開始され、途中、コロナ禍に見舞われた。2年間の制作活動休止を経て、撮影を再開すると、取材対象者らは「取材は一回限りじゃないんだ」と制作陣に信頼を寄せ、心を開いてくれたという。森監督は「蒸発者は自分のことを話したいけれど身近な人には身の上を素直に話すことができない。私たちは海外を拠点にしているので、その点では話しやすい存在。互いの要望が上手く交差しました」と語った。また、「私は日本で生まれ育ちましたが、制作を通じて別世界の日本を知りました。失敗しても新たな場所で人生をやり直すことができる日本はある意味でヨーロッパより自由かもしれない」と新たに発見した日本の一面について語った。
アンドレアス監督は「夜逃げ屋さんや西成のコミュニティが擬似家族のような関係性を持っていることが奇妙であり、興味深かった」と述べる。
また、今作の撮影で苦労した点として「日本人が笑顔で話すこと」を挙げた。アンドレアス監督は学生時代、通訳を介さずにベトナムで撮影を行った経験があり、「言葉が分からなくても顔の表情や声のトーン、雰囲気で彼らの話していることはわかりました」と話す。しかし、日本人はどんな時も笑顔で話そうとするので、通訳が無い状態だと終始朗らかな話をしているように思えてしまう。森監督は撮影当時を振り返って「アンドレアスは『どうしてみんな笑っているんだ!撮れ高がない!』と焦っていました(笑)。その度に『皆とても良い話をしているから大丈夫だ』と言い聞かせていました」と裏話を明かした。
上映後にはアンドレス、森両監督、伯人ドキュメンタリスト兼ジャーナリストのフラビア・ゲーラ氏、伯人ジャーナリストのアナ・パウラ・ロザ氏らによるディベートが行われた。ディベートでは失敗しても新しい場所でやり直せる、それを支える業者がいることはポジティブなことだという感想などが語られた。