毎週木曜日午後2時ぐらいになると、編集部のある文協6階フロアが賑わう。聖南西ピエダーデ市で農業を営む益田照夫さん(愛媛県出身、83歳)は、サンパウロ市まで車で片道なんと約4時間をかけて毎週果物を届けている。その度、編集部にも来てくれるのだ。益田さんは今年2月15日、日本とブラジルの友好親善に貢献した功績が認められ、令和5(2024)年度在外公館長表彰を受けた。9月28日、在サンパウロ総領事館の清水享総領事夫妻が益田さんを含むピエダーデの4農家を訪問すると聞き、同行させてもらうことにした。(麻生公子記者)
益田さんは愛媛県今治市玉川町出身、1961年にあるぜんちな丸で渡伯した。「『コチア青年』としてやってきたので、今でも青年です」との言葉に違わず、背筋がピシッと通って本当に姿勢がいい。2010年には文協主催の農業賞「山本喜誉司賞」を受賞している。
益田さんの農場は、12アルケール(=約29ヘクタール)もあり、総領事夫妻と一緒に益田さんが運転する車に乗って案内してもらった。総領事夫妻は初体験となるアテモヤの収穫体験を行い、「貴重な経験をさせて頂きました。これだけ広大な農園を管理するのは大変なことだと思います。日系移民の方々のご努力と先人のご苦労が偲ばれます。皆さんのおかげで我々は美味しいものをいただけているんだ、ということを改めて感じました」と柿など日本の果物や野菜を当地に根付かせた日本移民に対して敬意を示した。
益田さんの愛媛県の実家ではみかんを作っていた。益田さんは9人兄弟で順に結婚適齢期を迎えていくので、毎年結婚式を開く時期があり、「みかんがあったからなんとかなった」と懐かしむ。
ブラジルに来た当初は、「パトロンのところ(移民契約先の農場)で4年間働いて、そこからほど近い今の場所に来て、バタタ(ジャガイモ)やセボーラ(玉ネギ)、アーリョ(ニンニク)を作ったんだけど、だんだん果物を育てるようになった」と日本語にポルトガル語が混じるコロニア語で説明した。
「桃植えたりネクタリン植えたり、スモモを植えたり色々やった。15年前にやめてしまったけど、いまだに美味しかったと言ってもらえる。それくらい美味しかったんだ」と往時を振り返るが、桃やスモモの栽培は難しかったそうだ。
「決まった時に摘果しないと実が太らない。たったの10日間の間に摘果しないといけないし、剪定とか収穫とか箱詰め作業とか、小さいから手間取る。その点、アテモヤは6個から10個入れたら、もう一箱出来る。柿も箱詰めはしやすいけど育てるのは難しい」
現在の益田農場の主力商品は柿、アテモヤ、シャンパーニュ(みかん)の三つだ。柿7千本、アテモヤ2300本、シャンパーニュ(みかん)1千本で売上も順に良いそうだ。柿は、日本ではもう生産されていない「東京御所」という品種で、上皇ご夫妻がブラジルに来た時にも献上された。シャンパーニュは90年代に植え始め、アテモヤは2000年頃に植え始めた。
どのように育てる果物を選ぶのか聞いてみると「自分が好きな物を植えるのが一番。自分が好きじゃないものを食べてくれ、とは言えないじゃろ。人の舌の感覚はみな違うから、自分が食べて美味しい、と思うものを植えるのがいい、自分が美味しいと思うから人に勧められる。一度セアザ(CEAGESP、公営市場)に行ってみたらいい。益田の名前を出したら、みんな知っとると思うよ。それだけいい品物を出してるから」と品質には絶対の自信を持っていることがうかがえた。(続く)