在日ブラジル人は21万2325人と半年で500人増
日本のブラジル人コミュニティ動向を知るのに、これほど参考になるイベントはないと毎回痛感するのが、CIATE(二宮正人理事長)のコラボラドーレス会議だ。今年も3日にブラジル日本文化福祉協会の貴賓室で「日本の新たな外国人労働市場~展望と課題~」をテーマに開催され、ネットでもライブ中継され、対面だけで100人以上が参加した。
今年6月現在で、在留外国人数は358万8956人(前年末比で約18万人増)もおり、うち在日ブラジル人は21万2325人で5番目だ。2018年に開始され、年間2千人規模が期待されていた4世ビザを取得して日本に滞在する日系人は全部でわずか128人、うちブラジル人は106人と大半を占める。
つまり、2008年のリーマンショックで在日外国人が大量解雇され、日系人には帰国支援策で大量帰伯が奨励される裏で、【図1】にあるように、技能実習生として訪日する中国・フィリピン・ベトナムなどのアジアの若い労働者が激増していく流れが続く。
出入国在留管理庁が10月18日に発表した「令和6(2024)年6月末現在における在留外国人数」(https://www.moj.go.jp/isa/publications/press/13_00047.html)によれば、在日ブラジル人は21万2325人で、昨年末より485人増加。「永住者」は11万6014人、「定住者」(3世向け)は7万2023人、日本人の配偶者等(2世向け)は1万5693人となっており、過半数が永住を志向する層となった。うち労働者は14万人と、全外国人の中で5位となっている。
ブラジル人の技能実習4人、特定技能14人
中でも興味深い点は、厚生労働省職業安定局外国人雇用対策課の川口俊徳課長による講演「最近の日本の雇用情勢と日系ブラジル人労働者への支援政策」の中での技能実習生についての説明で、すでにブラジル国籍者が登録されていたという件だ。前出の入管庁統計でもブラジル人「技能実習」4人「特定技能」14人となっている。
つまり、日伯間で覚書が交わされていない現在でも、ブラジル人は技能実習ビザを取得することが可能だ。日系人でなくとも日本で就労できることが証明された以上、今後の日伯人流の大きな節目になる。
341万人という在留外国人数のうち、昨年初めて労働者が200万人の大台を超えた。川口課長は「日本ではバブル期並みに人手不足感が強い状態。今後、さらに特定技能、技能実習(来年から育成就労制度)が増えると見られている」とし、ベトナム、中国、インドネシア、ミャンマー、フィリピンなどの増加傾向を指摘した。
「2040年には外国人数が600万人になるという推計もある。ただし、東南アジア諸国が経済成長し、いつまで日本に来てくれるか分からない状況。すでにベトナム人は頭打ち傾向がみられる」との傾向も解説した。
国際的にも人権上問題があると批判が高まっていた技能実習制度が、今年ようやく抜本改正されて「育成就労制度」になり、3年以内に施行される予定だ。「外国人労働者を受け入れる企業や管理団体の態勢を厳しくする内容。『日本が選んでもらえる国』になるための厳しめの法改正。現在、台湾、韓国でも人手不足は深刻化しており、国際的な外国人労働者の取り合いが起きている」と改正の背景を読み解いた。
「かつて技能実習生の7割が期間終了後に帰国したが、現在は特定技能制度に移行する人が増え、帰国率は4割に減った。その皆さんは、技能実習の間に日本語レベルを上げるなどの努力をしたから特定技能に資格変更できた。外国人全体に日本語レベルの向上が求められている現在、日系人にも同様に日本語要件が厳しくなる流れがある」と強調した。
在日伯人支援で大きな役割果たすSABJA
続いて、在東京の特定非営利活動法人「SABJA」(在日ブラジル人を支援する会、SERVICO DE ASSISTÊNCIA AOS BRASILEIROS NO JAPÃO)の田村エリカ代表が「在日ブラジル人労働者の生活上の悩みとその解決について」をオンラインで講演した。
在日外国人の日本社会適応問題解決のための支援を目的に27年前に創立された団体で、現在の主要な活動は、オンラインによる心理カウンセリングだ。ポ語ができる4人の心理カウンセラーが年間1208件ものオンライン相談を受けている。
田村さん自身も30年近く前に訪日した際、「最初は日本語がしゃべれず、3カ月はカルチャーショックで毎日泣いていた。でもそのおかげで今は日本社会のことがよく分かる。ポルトガル語で相談できる場所があるだけで心の安心感は全然違う。その経験をみんなに伝えたい」とこの活動を加わった経緯を説明。
さらに「在日ブラジル人コミュニティは日本社会にもっと貢献できる。一人で悩んでいないで、私たちにコンタクトを取ってください」(電話〈東京〉050・6861・6400、nposabja@gmail.com)と呼びかけた。
最後に、4世ビザで訪日した滝口ミッシェルさんもオンラインで体験談を語った。滝口さんは当地で生まれ、5歳で親に連れられて訪日し、18歳でリーマンショックとなり帰伯した。「でもブラジル社会に適応できず日本に帰りたかったが、ビザの問題で難しかった。そんな時に4世ビザ制度ができ、CIATEに相談して日本の身元保証人を探してもらい今日本にいる。今年、日本語能力試験でN2の取得ができ、定住者ビザに切り替えている。間にあってよかった」と胸をなでおろした。
4世ビザ制度は昨年12月に要件緩和が行われ、定住者の在留資格への変更が可能になった。以前は最大5年間の滞在しかできなかったが、今はN2相当の要件を満たせば「定住者」の在留資格への変更が可能になった。滝口さんはそれにギリギリ間に合った。「定住者」の在留資格になれば、就労や家族帯同が可能で在留期間の更新も可能となる。
丹野清人教授「日系人も日本語を勉強して直接雇用を目指すべき」
午後は東京都立大学人文社会学部の丹野清人教授が「日本の新たな外国人労働市場―日系人から見た展望と課題―」を講演した。「2016年には在日外国人労働者は100万人だったが、それから7年で倍増した。アジアを中心に多国籍な外国人が激増した。かつての多文化共生は日系人との共存だったが、現在は多国籍になった。昔は日本人の方がポルトガル語やスペイン語を勉強して意思の疎通を図ることもあったが、現在は多言語化が進んだ結果、共通言語は日本語になった。つまり外国人が日本語を覚える必要がある」とこの15年間の在日外国人を取り巻く環境変化を簡潔に説明した。
技能実習ビザでは就労先を変えることができない。だが「日系人の定住者ビザは就労先を変えるだけでなく、地方公務員にまでなれる。技能実習生が働けない職種や会社でも就労可能。にも関わらず、日系人は日本語を覚えず、派遣労働者が多い。今のままで4世ビザの日本語要件などをさらに緩めても儲かるのは派遣会社。日系人本人がメンタルを変え、技術・人文知識・国際業務ビザで訪日するとか、日本語を覚えて直接雇用を優先して安定した生活を目指す指向を強めるべき」と提言した。
日本でポルトガル語による法律相談できる弁護士
在サンパウロ総領事館の新井尚美領事、日伯友好病院の上原アンドレ・カルロス医師に続いて、愛知県名古屋市で在日ブラジル人からの法律相談を多く受ける大嶽達哉弁護士(56歳、愛知県出身)が来伯して「在日ブラジル人を巡る日常の法的諸問題」を実務経験から講演した。大嶽さんは翌4日に本紙編集部を訪れたのでより詳しく取材した。
大嶽さんは2012年から15年まで、日本の弁護士としては初めてCIATE専務理事を務めた。帰国後に名古屋に開いた法律事務所ではポルトガル語を駆使してブラジル人関連の案件を積極的に扱い、日本育ちのブラジル人で初めて日本の弁護士資格を取得した照屋レナン現CIATE専務理事を雇った。
大嶽さんによれば「日本で弁護士資格を取ったブラジル人は3人」で、2人目は東大法学部卒の嘉悦レオナルド裕悟さん(かえつ・ゆうご、26歳、四世)で東京の大手国際法律事務所勤務、3人目の早稲田大学卒の知念友介さんも大嶽法律事務所で勤務しているという。
「日本では弁護士3人に加え、医師や教師にもなっていると聞きます。ブラジル人の定住化が進み、家を購入する人も多く、その件の相談もたくさん受けます」とのこと。同法律事務所で相談を受ける案件の7割がブラジル人関連だといい、件数が一番多いのは交通事故、2番目は離婚や遺産相続など親族関係、3番目が労災関係だが「件数は多くない」という。
「パンデミック以降、親族関係が増えた。仕事が減ってローンが残り、それが夫婦や家族関係に影響し、法律問題になっているようです。以前は共働きを前提にローンを組んでいた人が多く、それがコロナ以降できなくなり深刻な問題になった」とみている。
「日本で自宅をローンで購入し、払えなくなってブラジルに夜逃げした人がいると聞きますが」と質問すると、「日本には自己破産という制度があり、我々に相談してもらって、これをやれば自宅を買ったローンなどの債務を整理できる。でもブラジルにはこの制度がないために、多くの人はあることを知らないで『nome sujo』になると思い詰めてしまっているようです。夜逃げする前にぜひ相談をしてほしい」と呼びかけた。
日本の金融機関としても自己破産なら通常の経理処理で対応できるが、夜逃げで帰伯されてしまうと債務処理が難しくなり、手間と費用がかさむために頭を抱えている状況だという。「リーマンのあとが特にひどかったようです。相談に来てもらえば、家を残しつつ債務整理できる場合もあります」とのこと。
日本でポルトガル語による法律相談ができるところは珍しく、「ワッツアップなどで日本全国から相談を受けています」という。する大嶽達哉法律事務所の電話(愛知県名古屋市中区所在、052・766・5233、この番号がワッツアップ可)まで。
特定技能制度2号合格者200人越えの時代に
二宮正人理事長はコラボラドーレス会議の要所要所で、深い知見に基づいたコメントを述べた。中でもSABJAの後、「日本では40年がかりでブラジル人定住化が進んでいる。ブラジルにおける日本移民の定住化より、早いかもしれない。そこにおけるSABJAと在外ブラジル人代表者評議会(Conselho de Representantes Brasileiros no Exterior=CRBE)の働きは重要だ」と語り、考えさせられた。
確かに1908年に始まった日本人移住が、邦人社会全体で本格的に「ブラジルに骨を埋めよう」と意識を変えたのは、戦後移民が到着し始めた1953年以降だろう。そこまでに半世紀近くかかっている。
ただし、1950年代のブラジルでは、日本移民の子孫はブラジル人とまったく同じ条件で教育を受けることができ、その結果、2世はサンパウロ州立総合大学(USP)入学者の1割を占めるまでになった時代があった。「骨を埋めよう」と思ってからそこまであっという間だった。
ところが現代の日本においては、外国人と日本人の教育機会は平等ではなく、在日ブラジル人子孫の高校卒業者は半分以下しかおらず、まして大卒となれば非常に少ない。日本で今以上に外国人労働者が増えれば、結果的に永住者も増えることになる。
事実、家族の帯同ができる永住資格が得られる特定技能制度2号の合格者は、昨年まで2人程度しかいなかったのに、この年後半には200人以上に一気に増えた。この勢いで増加すれば、数年以内に千人台、10年後には1万人の大台にのるかも。好むと好まないとに関わらず、日本は外国人住民との共生を迫られるだろう。(深)