サンパウロ州ピエダーデ市にある24ヘクタールもの広大な土地で、国内最大の出荷量を誇るベゴニアを生産しているのは、新潟県から来た藤巻一家の2世、藤巻マリオさんだ。同地は気候が良く、質のいい花ができ、発色もよいのだという。
花の生産面積はなんと12ヘクタール。広大な温室に赤やピンクの鮮やかなベゴニアがずらーっと並ぶ様は圧巻だ。この温室設置と温度維持だけでも、気が遠くなるぐらいの費用かかるに違いない。他にも、水玉模様や渦巻き模様などの左右非対称の葉をもつベゴニアなど、様々な種類を生産している。
藤巻一家は元々、イチゴや果物を生産していたが、27年前、1997年に花作りを始めたという。「僕は畑が合わなくて、ずっと花を作りたかった。花の作り方は、オランブラ(花の生産地として有名)のコペラチーバ(協同組合)や花を作っている人など、あちこちに行って教えてもらって作り始めました。質の良いベゴニアを作れるようになるのに、一年半かかった。簡単に作ることはできなくて、専門家を頼んでやっと作れるようになりました」と転作の大変さを語る。
標高が低いところで750m、一番高いところだと1227mもある同地は冬が寒い。そのため花や葉の色が濃くなるが、温度や湿度が下がりすぎないように調整しなければならない。冬はユーカリ材を燃やして温室内を18度に保つ必要がある。逆に暑いときは温室の側面部を開けたり、アルミをかけて遮光したりして温度を調節するそうだ。
温室内にはカラフルな黄色いテープが張り巡らされているが、それは虫取りだそうで、よく見ると小さな虫がたくさんついていた。
温室以外の場所に土が積んであり、「買った土をそのまま使ったのでは良いものができないので、色々混ぜて使っています」と、様々な工夫を施して大切に花を育てているのがわかる。
一つの鉢は出荷するまで18週かかる。藤巻農場ではなんと、毎週4万5千鉢を出荷しているという。コロナ禍の時は、かつてない売り上げで「家の中にずっといるから家を彩りたい」「奥さんにプレゼントしたい」という人や「花と話している」という人もいたそうだ。売れ筋商品は、花をつけるタイプのベゴニアで、赤、ピンクがよく売れて、白と黄色は結婚式や装飾用によく買われているのだとか。
27年前に花を作り始めた時には、「まさかこんなに成功するとは想像もしていなかった」という藤巻さん。コロナ禍という世界的な災いを、むしろ追い風にした強運の持ち主だ。
育てているベゴニアで一番好きな種類は何かと聞くと、「僕は全部好き。好きじゃないとできない」ときっぱりと言い切った。それが成功要因の一つではないだろうか。(つづく、麻生公子記者)