聖南西ピエダーデ農家巡り=(5)シイタケ栽培の石原農場=国内最大規模、週約4トン出荷

シイタケ栽培の石原さん親子

 ずらりと並んだ冷蔵庫の中に入ると、棚がぎっしりと置かれ、〝食パン〟の塊のようなものがたくさん並んでいる。なんとその〝食パン〟はシイタケの枕木で、枕木一つから600g、気候が良いと700gものシイタケが収穫できるという。
 ここはピエダーデにあるシイタケ栽培の石原農場だ。祖父母が熊本県出身の石原哲郎さんと息子の石原映二さんがシイタケ栽培を始めたのは2012年。今では38人の従業員が働き、1週間に約4トンのシイタケをブラジル全土に出荷している。
 ブラジル全体では50軒ぐらいの農家がシイタケ栽培をしているが、ほとんどは家族経営で規模が小さい。出荷量の平均が週に200キロ程度だというから、石原農場の4トン出荷という規模がいかに群を抜いているかがわかる。
 暎二さんはそれでも「まだブラジルのシイタケ需要に追い付けていない」と考えており、今月24日に新たな栽培室の落成式を予定している。菌の繁殖と栽培を行う部屋の室数は合計で36室になり、週に8千ブロック、約5トンのシイタケ生産が可能になる。ブラジル最大のシイタケ生産者としての成長はまだ続いている。

シイタケ栽培菌培養室

 シイタケ栽培では、日本から菌のついた枕木を取り寄せ、ビニールに入った枕木を、20~23度ぐらいの温度の部屋で管理し、約3カ月後に白い枕木から液が出てきて茶色く変化したら、ビニールから取り出し、12~13度の冷蔵庫に移して栽培を開始する。
 冷蔵庫に入れてから約10日で収穫できる大きさになり、収穫後も新しいシイタケが生えてくるため、曜日ごとの定期的な収穫管理をしているそうだ。温度を一定に保つための栽培室の電力供給を支えるために、75kVAの変圧器を4台も設置しているという。
 暎二さんは栽培法について、「日本では、クヌギでのシイタケ栽培が一般的だが、ブラジルではユーカリを枕木に使っている。それ以外の栽培法は日本と同じだよ」と話す。
 清水享総領事への事業紹介に備え、念のため日本語学校の先生が通訳として同席してくれていたが、暎二さんは流ちょうな日本語が話せ、ほとんど自分で説明を行っていた。6歳から14歳までピエダーデ日本語学校で週5日間日本語を学び、2023年からはJICAボランティアとして日本から来た日本語教師の金城愛樹さんに教わっているのだという。

枕木から生えているシイタケ

 シイタケの出荷先は、サンパウロ市近郊が中心だが、パラナ州やサンタカタリーナ州、南大河州ポルトアレグレなどブラジル南部にも広がっている。「ブラジル人のほうがシイタケをよく食べるよ。バターしょうゆが人気だね」と暎二さん。お土産にいただいた肉厚でブリッとしたシイタケをバター醤油で焼いてみたら、香りもよく、噛むとじわっとうまみが口の中に広がった。
 Piedadeの意味は「愛情を示すこと、献身」や「他人の苦しみに対する思いやり、慈悲」だ。口に広がるうまみをしみじみ味わいながら、その名の通り、日本移民とその子孫の、それぞれの作物への愛情や献身が、彼らの成功と品質の良さにつながっているのだと感じ入った。(終わり、麻生公子記者)

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