ファーストレディのジャンジャ大統領夫人が16日、G20サミットの一環で開催されたイベントでソーシャルメディア規制についての討論中に、米実業家のイーロン・マスク氏に対してFワード(下品な言葉とされるスラング)を使って侮辱的な発言をしたことが物議を醸している。専門家らは、ブラジルと米国の次期トランプ政権との関係に悪影響を与える可能性を懸念していると、17日付BBCブラジルなど(1)(2)が報じた。
ジャンジャ夫人による問題発言は、イベント会場近くの海岸から発せられた船の汽笛音により、自身の発言が中断された後に出たものだった。その音に驚いた彼女は、これがマスク氏によるものだと冗談めかして言った。「これはイーロン・マスクの仕業だと思うわ。でも私はあなたを恐れていない。F*ck you(クソ野郎)、 イーロン・マスク!」と発言し、会場からは笑い声が上がった。
冗談であったとはいえ、この侮辱的な発言は、マスク氏本人とルーラ大統領による即座の反応を引き起こした。
マスク氏は、ジャンジャ夫人の発言を自身のSNSで動画とともに投稿し、大笑いする絵文字を添えて「次の選挙で彼らは負けるだろう」とコメント。
一方、ルーラ大統領は米国大統領選挙投票直前にも、ハリス民主党候補支持を公言する発言をしていた。だが、16日夜に行った演説の中では妻の発言を諫めるように、「私は皆さんに言いたい。選挙では誰かを怒らせる必要も、誰かを罵る必要もない。我々はただ、社会に怒りをぶつけるだけで十分だ」と控えめに語り、世界的な飢餓対策の強化を訴えた。
トランプ氏を強く支持していたマスク氏は、トランプ次期政権で新設される政府効率化省のトップに就任し、「政府官僚主義の解体」「大規模な構造改革」「歳出削減」を目標に働くことが決まっている。
そのため、外交官らはジャンジャ夫人の発言がブラジルと米国との実利的な関係を築こうとする努力に対してマイナスに働くと評価している。外務省の関係者によれば、ブラジルは次期トランプ政権との対立を不必要に煽ることなく、冷静に関係構築に取り組む方が有益であるという。
ミナス・ジェライス連邦大学のダウィソン・ベレン・ロペス教授は、ルーラ大統領がトランプ氏について「ナチス的性質を持つ」と不適切な発言をしていたことを回顧し、今回のジャンジャ夫人のマスク氏への侮辱発言が両国間の関係に不必要な疑念を生んだと批判した。
さらに、国際法の専門家であるヴィクトル・デル・ヴェッキオ氏は、ジャンジャ夫人の不適切発言がトランプ政権との関係にさらなる緊張を引き起こし、ブラジルにとって重要な米国との関係改善に逆効果を与えると警告。両国の政権の違いを浮き彫りにし、重要な問題での合意を求めるブラジル政府の努力を妨げる可能性があるとした。
ジャンジャ夫人の問題発言は、ブラジルのアレシャンドレ・デ・モラエス最高裁判事とマスク氏との間で繰り広げられている対立の文脈の中で起こった。23年、モラエス判事は同年1月8日の三権中枢施設襲撃事件に関連する人物のSNSアカウントの停止を命じたが、Xは従わず、最高裁判所からの検閲だと非難した。
モラエス判事とマスク氏が辛辣な言葉を交わすうちに緊張が高まり、今年8月末にはブラジルでのXの運営が停止されるという事態にまで至っていた。