Web漫画サイト「comic HOWL」で6月18日、『ファヴェーラの漫画家』(原作:萩本創八、漫画:樽路実)の連載が始まった。27日現在で5話までが公開され、ブラジルでも話題を呼んでいる。同作は漫画家としての成功を諦めた失意の日本人青年が、サンパウロ市のファヴェーラで日本の漫画家に憧れるブラジル人少年と出会い、2人で漫画家としての夢を追いかけるストーリーとなっている。原作担当の萩本さんにメールインタビューを行い、同作に込めた想いなどを聞いた。
同作は公開当初からファヴェーラをテーマにした作品ということでブラジル人漫画愛好家の注目を集め、ブラジルネットメディアの「UOL」や「Jorven Nerd」、「JBox」で取り上げられた。ブラジル人読者からは「作者はブラジルのことをよく勉強して忠実に描いている」「このような作品がブラジル国外から生まれたことを誇らしく思う」などの感想が寄せられている。
萩本さんはこれまで、アスペルガー症候群をテーマにした漫画『アスペル・カノジョ』(2018年、講談社、全12巻、漫画:森田蓮次)の原作などを手掛けてきた。ブラジルには一度も訪れたことがないが、Facebook上での作品広報活動を通じてブラジル人の友人が出来、ブラジルには親しみを持っていた。
かねてから、漫画家になる方法がわからず、夢への挑戦すら出来ないまま諦めている人が多いことに問題意識を持っていたが、ブラジル人の友人との交流が深まるに連れ「彼らには漫画家になるチャンスが無い。不公平じゃないか」とその想いを強くし、「ブラジル人主人公が漫画家を目指す物語」の構想が生まれた。
ファヴェーラを舞台にしたのは、ブラジル人の友人から勧められて観た映画「シティ・オブ・ゴッド(Cidade de Deus)」に衝撃を受けたから。「脚色されているとはいえ、そこに表現されているファヴェーラの現実は『僕も描きたい!』と思わせるだけのインパクトがありました。また、ファヴェーラが舞台なら日本の読者にも興味を持たせられ、商業誌の厳しい連載審査も突破出来ると思った」という。
ブラジルについてはインターネットや本などを通じて調べるが、最終的にはブラジル人の友人に情報の確認をしてもらい、写真の提供も受けている。友人の中には実際にファヴェーラに住む人もいるという。「皆さん一つの質問に10も20も返してくれるぐらい、本当に献身的に教えてくれるので、最高の協力者です」と語る。
今後の展開については「現実の厳しさを楽観的には描きたくないので、今後もずっと怪しい雲行きが続きそうです。創作の分野を仕事にするというのは簡単なことではないですし、貧困から抜け出すことも簡単ではありません。どうやって困難を突破していくのか、突破出来ない場合もあるのかなど、なるべくリアリティを意識していきたいです」と語った。
最後に、ブラジル人読者からは「ジョアン(主人公のブラジル人少年)をバイーアに行かせてあげて」や「ミナスジェライスを登場させて欲しい」などの声が寄せられているといい、「いずれサンパウロやリオ以外の様々な場所も登場させたいとも考えていますが、実現できるかは、この漫画が長く続くかどうかにかかっています。全身全霊をかけて描いていきますので、応援よろしくお願いします!」と語った。
『ファヴェーラの漫画家』はWeb漫画サイト「comic HWOL」(https://ichijin-plus.com/comics/157030278988266)から読むことが出来る。
サビアのひとり言
『ファヴェーラの漫画家』の物語を考える上で様々なブラジル文化に触れた萩本さん。日系社会の存在や、ブラジル人の郷土愛の強さに驚きを覚え、ブラジル料理の「コシーニャ」やTV Globoドラマシリーズの「Cidade dos Homens」のファンになった。また、ブラジル人の友人に勧められて読んだ、ブラジル人漫画家カイオ・ユリシーズさんによる漫画『Sense Life』には「台詞を正確に理解することはできませんでしたが、絵を見るだけでも大変な創造性を感じ、もし日本語版があれば日本の人にも『読んだ方がいい』と勧めたいと思いました」と太鼓判を押す。作品内の展開も気になるが、日伯漫画文化交流の新展開にも期待が高まるところだ。