『蜃気楼のサウダージ』上演中=演出家小池博史さんインタビュー

稽古中の小池さん

 「様々なものが混ざり合い、調和し、ダイナミズムある作品になっています」―小池博史ブリッジプロジェクトによる国際共同制作プロジェクト『Saudade Na MIRAGEM・蜃気楼のサウダージ』の公演が、サンパウロ市のSescヴィラマリアーナ・アンツネス・フィリョ劇場(Sesc Vila Mariana Teatro Antunes Filho: R. Pelotas, 141)で12月15日まで行われている。今回で7回目の来伯となる演出家の小池博史さんに今作に込めた想いを聞いた。

 小池さん(68歳、茨城県出身)は1982年、パフォーミングアーツグループ「タラフマラ劇場」の設立を皮切りに数々の舞台演出を手掛け、つくば市芸術監督や国際交流基金特定寄附金審議委員、武蔵野美術大学教授などを務めた。2012年に「小池博史ブリッジプロジェクト」を立ち上げ、「世界と時代、文化をつなぐ架け橋を創り出すことを目的」に作品創作を行い、これまで42カ国で公演を行っている。
 ブラジルには10月8日に到着し、11月30日の公演初日に向け、日本人能役者や日本人舞踊家、ブラジル人俳優、音楽家ら出演者11人及びスタッフらと稽古をスタートさせた。
 稽古について小池さんは「ブラジルについては知っているつもりだったが、文化に対する考え方や多様な人種がいる中でどうすれば上手くできるのかが難しかった」と語り、「皆で仲良く一つのものを作る、境界がない」点に感心したという。
 ブラジルと日本の文化的芸術に対する考え方の違いについて問うと、単一国家と多民族国家の違いが影響していると答えた。皆が同じ楽しみを求める日本に対して、ブラジルは関心が多方面にある。世界中のアーティストと作品を創作してきた中でも、ブラジルが一番、実験的で、メルティングポット(人種のるつぼ)の過程にあり、どのような文化を作っていくかを意識していると感じたという。
 小池さんは2022年に4カ年計画「火の鳥プロジェクト」を始動させた。今作は同プロジェクトの第3章にあたる作品ともなっている。同プロジェクトでは、様々な面で瀬戸際にある世界の中で、いかにして人々が再生できるかを示す。小池さんは「バラバラのものが調和できるということを見せ、新しい価値観と表現を探求する」と語る。

『蜃気楼のサウダージ』リハーサル風景

 火の鳥プロジェクトでは、様々な国から侵略を受け、多様な文化を生んだポーランド、アジアの中で最も多民族・多文化共生が進んでいるマレーシア、世界有数の多文化社会を持つブラジルがプロジェクト対象国に選ばれた。
 今作は、19世紀末のブラジルで発生した宗教共同体による反乱「カヌードスの乱」をもとにした内容となっている。「カヌードスの乱には人間の恐怖心や、人間が何かという問いが非常に表れている」と話し、過去の宗教戦争でありながら、未来を作る大きな転換を示唆する作品創作上の重要な要素になったと語った。
 今作の見どころは「日本の古典が入っているところです。違和感なく、完全に調和して聞こえてくる。様々なものが混ざり合い、調和し、ダイナミズムある作品になっています。映像も役者も面白く、どんな人でも『なんだこれは?』となるはず。是非たくさんの人に見てほしい」と語った。
 来年には火の鳥プロジェクトの最終章として今まで公演を行ったポーランド、マレーシア、ブラジルの出演者と共に東京での公演を予定している。

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