《記者コラム》本紙のデジタル化と経営改善=移民120周年祝うための改革に協力を

世界唯一のブラジルや中南米専門の日本語新聞

 来月4年目を迎えようとする本紙「ブラジル日報」(https://www.brasilnippou.com/)は現在、「デジタル化」「経営改善」という二大変革を行っている最中だ。
 非営利団体「ブラジル日報協会」(山田ワルテル理事長)が発行する「ブラジル日報」は、ブラジルを中心にした中南米関係の日本語記事を週5回、毎日20本前後も出している。ブラジルの政治、経済、社会、日系人関係の動きを、本紙ほど詳細に日本語で報じている媒体は他にない。
 ブラジルで初めに日本語の新聞が発刊されたのは、108年前で、笠戸丸がサントスについてから8年後だ。その時から、ポルトガル語を解さない日本移民の生活を邦字紙は100年以上支えてきた。今でも特に高齢の移民の方にとっては、「日本語の新聞とNHKを見るのが唯一の楽しみ」というほど、大切にされている。
 しかし、購読型の邦字紙はどんどん廃刊している。世界中、日刊で日本語による情報発信をしている新聞社は、「ブラジル日報」が唯一と言っていい状況だ。
 ブラジルでも1998年に3紙から2紙になり、2019年から「ニッケイ新聞」1紙となった。その「ニッケイ新聞」も2021年末に廃刊となってしまった。
 そのような状況の中で、現在のブラジル日報協会の会長が、「移民一世の人たちに新聞を」という熱い思いを持って、非営利団体として2022年に「ブラジル日報協会」を立ち上げ、「ブラジル日報」の印刷版を発行し続けている。ポルトガル語版の「Nippon Ja」も同時に創刊し、ポルトガル語でも情報を発信し続けてきた。
 ネットによる情報発信は「ニッケイ新聞」でも行われ、ブラジルにいる移住者や駐在員だけではなく、日本にいる日系社会に関心のある人、ブラジルと取引のある企業担当者、中南米研究者、ブラジル愛好者、金融関係者、ブラジル音楽や映画ファンなど幅広く購読された。
 このように、日本語で情報を伝え続けてきたブラジルの邦字紙だが、移民の高齢化、紙・活字離れなどから、印刷版購読者が減っていくのは必然の流れだ。新聞を発行し続けるためには、情報を提供するために膨大なリソースと費用が必要である。さらに、印刷代、配達代が年々値上げし、経営を圧迫してきている。

リニューアルされた新サイトが1月に運用開始

 そんな中、本紙は二つの生き残りの方向性を模索している。(1)日本語メディアとしての生き残り策、(2)ポルトガル語メディアとしての生き残り策だ。日本語もポルトガル語も、本紙が「ブラジル・メディア」である以上、コインの裏表の関係だ。
 (1)に関して言えば、印刷版の購読者減を、デジタル版の購読者増で賄い、収益を改善する必要がある。現在はJICAの支援を受けてマーケティング専門家を派遣してもらい、デジタル版での収益改善を行っている。まずは、現在のウェブサイトの問題点を洗い出し、新たなサイトを構築しているところだ。既に日本のサイト制作会社に発注して、1月中にリニューアルサイトの運用開始が予定されている。
 新サイトでは、デザインを一新するだけでなく、セルラー利用者も使いやすくなるなど、便利な新機能がいろいろとつく。
 たとえば、現在はウェブサービスの利用料をブラジルレアル払いでしようとした場合、協会に電話やメールでの申し込みが必要で、手間がかかった。新サイトでは、ネット上で申し込み手続きができるようになる。支払い方法も、法人会員向けにボレットでの申込も可能で、領収書もサイトから自分で発行できる機能がついている。クレジットカードの更新も、サイト上で自分で行え、支払いがいつまでできているかなども確認できる。このように、決済方法の簡略化や会員登録プロセスの改善、会員体系の変更などで、ネット会員の利便性を上げ、会員の定着、新規獲得を図っていく。
 ネット会員の内、「WEB会員」登録者は過去記事を「あいまい検索」(現在は完全一致検索)することができるようになる。また「PDF版会員」は、これまでPDFデータいちいちダウンロードしないといけなかったが、新サイトではダウンロードせずにサイト上でそのまま読める「フリップブック形式」となるため、セルラーやパソコンの容量を圧迫しないで済むようになる。
 そのほか多々変更があるが、詳細は運用開始時に改めて説明したい。

新しいロゴ(平型)
新しいロゴ(丸型)

力強くバランスのとれたロゴに変更

 もうお気づきの読者も多いと思うが、本日から本紙ロゴを変更した。今までは日本の伝統的なスタイルである筆で描いたような書体だったが、力強いゴシック体に変えた。ポルトガル語名を大きくして、小さなロゴでも読めるようにバランスを変更した。こちらは日本語とポルトガル語、両方での発信を強化していく、という決意の表れを反映したものである。
 このロゴの変更は、SNSでの発信もさらに力を入れていく、ということにも関係する。
 今年の春から、本紙ユーチューブ(https://www.youtube.com/@BrasilNippou/)、インスタグラム(https://www.instagram.com/brasilnippou/)、フェイスブック(https://www.facebook.com/BrasilNippou/)、X(twitter.com/BRASILNIPPOU)などのSNS発信を強化している。各種SNSにはアカウントの画像表示が見えやすいように、丸いロゴを用い、日本語とポルトガル語を読みやすくしてある。
 SNSでの発信で、いくつか話題になった取り組みを紹介したい。まずは、インスタグラムでの《リベルダーデにあるアフリトス通りの鈴蘭灯が撤去》(https://www.instagram.com/reel/DCknqFwJmDA/)の動画だ。6万5千回以上再生され、3千2百以上のいいね、170件以上のコメントが寄せられた。そのほとんどが非日系のブラジル人によるもので、コメントの多くは日本人がこの問題を中立的な立場で簡潔に解説したことを好意的に受け止めている内容だった。
 ユーチューブでは移民史に関する講演《日本人が知らないブラジル移民 過酷な「戦争と日本移民」の歴史》(https://youtu.be/NsCS0bmQvds)が、再生時間が1時間以上もあるにも関わらず、約2400回も視聴された。この動画からチャンネル登録した人も多く、移民史に対する関心の高さがうかがえた。本紙が移民史を伝えていく必要性を改めて考えさせられた。

約2400回視聴されている1時間余りの移民史講演会のユーチューブ動画

SPDL社が7月に配達料金を2倍値上げ

 二大改革の二つ目「経営改善」の点だが、印刷版を発行するためには、印刷代と配達代がかかる。戦後移民読者は大半が80歳以上となり、インターネットをやらない人が多いので印刷版継続は必須だ。
 配達の場合は、どうしても本紙が業務委託しているSPDL社に配達を依存することになる。残念ながら、毎日読者から多数の未配達の苦情が届くので、それをSPDL社に伝えているが、一向に改善の兆しがみられない。全国規模で新聞配達をする会社はここしかなく、他に選択肢がない。
 さらに、今年7月にSPDL社が一方的に配達料金を2倍に値上げした。これが本紙の財政状況をさらに悪化させた。当協会支出の三大項目は人件費、配達代、印刷代だ。この三つでほぼ8割になる。配達料金2倍値上げで赤字が大幅に膨らみ、「経営改善」の取り組みが緊急課題に浮上した。
 また、印刷代も年々上がっていくという状況である。
 そこで、コンピューターを使っている読者で印刷版を購読している人には、WEB会員への乗り換えを薦めたい。WEB版は印刷版よりも安く、サイトでしか読めないその日の最新記事もある。本紙サイト(https://www.brasilnippou.com/membership)からクレジットカード払いができ、本紙(電話11・3164・0474)に連絡をもらえば、レアル払いでボレット発行も可能だ。1月には、新しいサイトが立ち上がり、より使い勝手もよくなるのでぜひWEB版会員の登録をお願いしたい。

ポルトガル語版をデジタル版に移行

 そのような「経営改善」の取り組みの中、苦渋の決断で、購読者が少なかった印刷版のポルトガル語新聞「Nippon Ja」をこの10月末でいったん終了させることにした。購読者の数と比較し、印刷代と配達代の経費が掛かりすぎるため、経費削減の一手段としての決定だ。
 その代わり、11月以降、必要に応じてブラジル日報印刷版の8面にポルトガル語記事を掲載している。かつてサンパウロ新聞、パウリスタ新聞、日伯毎日新聞もその形態をとっていた。
 また、「Nippon Ja」印刷版は無くなっても、そのサイト(https://portal.nipponja.com.br/)とフェイスブック(https://www.facebook.com/JNipponJa/)、インスタグラム(https://www.instagram.com/portal_nippon_ja/)などのSNSはそのまま継続させ、ほぼ毎日新しい記事を発信している。
 つまり、デジタル版に完全移行し、ポルトガル語メディアは継続、発信強化をしているということだ。
 繰り返すが、印刷版のポルトガル語新聞「Nippon Ja」の終了は、「ポルトガル語新聞を終わらせる」という意味ではなく、デジタル版に移行するという意味だ。ポルトガル語媒体としてはベージャ誌、フォーリャ紙、エスタード紙、グローボ紙全てが印刷版部数を激減させ、デジタル版に移行している。これは時代の流れともいえるものだ。
 さらに、ブラジル日報の新サイトはチャットGPTの自動翻訳機能を内蔵する予定で、日本語記事をポルトガル語でも表示できるようになる。そのため、新サイトの運用開始後、順次、「Nippon Ja」の内容を「ブラジル日報ポルトガル語版」に統合する予定だ。

本紙サポータープログラムの説明ページ

寄付やサポータープログラムでの支援を

 創刊以来、ブラジル日本文化福祉協会の6階全フロアを借りて活動してきたが、家賃を減らすために半分以上を返還し、6階奥側だけで活動を続けることになった。
 「経営安定化」に関して相当の経費削減が進み、かなり収支が改善する予定である。
 前述した通り、新聞を発行し続けるためには、膨大なリソースと人件費がかかる。現在は、収益を改善できるよう、最低限の人員が最大限に働いて新聞を発行し続けている。
 このような経営努力をしているが、インフレ調整のために新年の早い時期に印刷版の購読料値上げは避けられないだろう。
 今後はさらに、日本語教育向けのコンテンツ作成、SNS用の映像編集、ポルトガル語新聞の編集取材などの人員を補強したい。そのために、ぜひ本紙の「サポータープログラム」(https://www.brasilnippou.com/2024/240424-esp1.html)に協力をお願いしたい。
 当協会は利益を目的としない「非営利団体」であり、純粋な寄付もありがたい。こうした改革を早く完遂させれば、日本移民120周年(2028年)を盛り上げるためのコミュニティペーパーに生まれ変わることができる。
 移民読者は邦字紙を読むことでコロニアやブラジル社会、日本の動きを把握することができ、社会との一体感が増す。「ブラジルに移住して良かった」と思えるようになり、精神の安定に貢献するだろう。もしも周りに邦字紙を読みたいが購読料を払いきれないと諦めている人がいたら、財布に余裕がある人は、その人の分を負担してあげられないだろうか。
 日本の消費者金融大手「プロミス」創業者・故神内良一氏から「恵まれない日本移民を世話するために使ってほしい」とサンパウロ日伯援護協会に贈られた「神内基金」は、そのようなことに使われてもいいのではないかと思う。
 いままで日本語新聞がポルトガル語新聞の経営を支えてきた。今もしブラジル日報がなくなれば、同時にデジタル版に移行したポルトガル語のコミュニティペーパーも危機に陥る。ポルトガル語のコミュニティペーパーがなくなれば、今後の周年行事や日系団体の節目になっても、日系人のコンセンサス(共通認識)を形成するメディアがなくなる。日系人の日本語能力はさらに低くなり、日系人アイデンティティも薄まるだろう。
 県人会や地方文協などの日系団体はもちろん、日本政府機関、日本進出企業など、日本語媒体だけでなく、ポルトガル語媒体という日系社会の共通認識形成の手段がなくなると、困ることがいろいろと出てくる。日本移民120周年を盛大に祝うために、時代に合わせた形に日系団体もコミュニティペーパーも変化していくことが必要ではないだろうか。(深)

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